さて、こうしてはいられない。

僕は、加那芽兄様の手を借りて立ち上がった。

「助け舟を出してくれて、ありがとうございます。でも僕はもう大丈夫ですから」

加那芽兄様は、僕などに構ってはいられないのだ。

「本当に大丈夫かい?もし具合が悪かったら…」

「平気です。一人で大丈夫ですから」

さっきは、珍しく僕に話しかけてこられたけど。

ルレイア卿以外のお客様で、僕に話しかけるような酔狂な人はいるまい。

だから大丈夫。

この忙しい日に、加那芽兄様を引き留める訳にはいかない。

「そう…。分かった。それなら、もしまた怪しい人に話しかけられたら、相手を蹴りつけて逃げるんだよ」

「…蹴りませんよ…」

「それにしても小羽根、いつも可愛いけど、今日はまた一段と可愛いね。昔の私なんかよりずっとよく似合ってる」

それはお世辞です。加那芽兄様の方が似合ってましたよ。

「それじゃ、また後でね」

加那芽兄様は笑顔で手を振り、僕も同じように手を振り返したのだった。