僕のピンチを救ってくれたのは。

「か、加那芽兄様…」

礼服に身を包んだ加那芽兄様が、お客様ににっこりと微笑みかけていた。

い、いつの間に…。

それよりこの人…ルレイア卿って言うんですか?

聞いたことがあるような…ないような…。

「ん?兄様?ってことは…」

「弟に何か御用で?」

「あー。これ、あなたの弟なんですか」

これって言わないでください。

やっぱり、知らずに勧誘しようとしてたんですか?

「いえ。この顔は才能がありそうなので、ウチのお店で使おうかと思ったんですけど」

「そうですか。しかし、私の弟はまだ未成年で、学校に在学中ですから」

「ふーん…。まぁ、確かに未成年を使うと、小うるさい取り締まりに引っ掛かるんですよね」

と言うなり、ルレイア卿はぱっと僕の手を話してくれた。

「仕方ない。じゃ、今回は諦めますよ」

よ、良かった。助かった…。

…え?今回は?

次回があるんですか?

「でも、成人したら是非俺のもとに来てくださいね。あなたなら、人気ホストになれますよ」

ぐっ、と親指を立てて言ってくれた。

それはどうも。

こんなに嬉しくない褒め言葉も存在しない。

「それじゃ、ご縁があれば、またいつか」

そう言って、ルレイア卿は手を振りながら、人混みの中に消えていった。

た…。

…助かった…。

「…はぁー…」

へなへな、とその場に座り込みそうになった。

本日一番の危機を、何とか乗り越えることが出来たようだ。

…加那芽兄様のお陰で、ですけど。 

「大丈夫かい?小羽根…」

脱力してしまった僕を、加那芽兄様が支えてくれた。

「うぅ…。ありがとうございます…」

「まさか、ルレイア卿に絡まれてるとはね…。小羽根が食べられてしまうんじゃないかと、肝を冷やしたよ」

あの人は何なんですか。猛獣か何かの類ですか?

まぁ、危うく食べられるところだったので、あながち間違ってなさそうですが…。

加那芽兄様が助けてくれなかったら、どうなっていたことか。

「あの人に迂闊に近寄ってはいけないよ。あの人がその気になれば、この会場にいる全員が地獄送りになるからね」

猛獣じゃなくて、死神の類ですか?

そんな人に絡まれるなんて…。なんて不運なんだ…。

「僕が近寄ったんじゃなく…その…」

「分かってるよ。きっと、彼のお眼鏡に叶ったんだろうね」

そうなんですか。…嬉しくないですけど…。

「危ないところだったよ。小羽根が可愛いのは言うまでもない事実だけど、小羽根が外国に行っちゃったら会えなくなるからね。絶対駄目」

加那芽兄様も、真面目な顔をして何言ってるんですか。

助けてくれたのは有り難いですけども。