放課後。

僕は、今日から部活動の拠点となる調理実習室に向かった。

また異臭が漂っていたらどうしよう、と、内心ハラハラしながら向かったのだが…。

「し、失礼します…」

若干腰が引けた状態で、そっと調理実習室の扉を開けると。

異臭らしきものは、全く漂っていなかった。

良かった。まだ料理に取り掛かってはいないようだ。

それどころか、調理実習室の中にいた天方先輩は、調理台をテーブル代わりに、ノートを開いていた。

…何やってるんだろう。レシピの研究とか?

「…ん?」

その天方先輩が、僕に気づいて顔を上げた。

あ、ど、どうも…。

「こ、こんにちは…」

しまった。お疲れ様です、って言った方が良かったのだろうか。

それとも、夕方でも「おはようございます」って言うべき?

「え、えぇと…」

「…誰?」

えっ。

天方先輩は、僕を見てポカンとしていた。

そんな天方先輩を見て、僕もポカンとしてしまった。

「何?入部希望者?それとも迷い込んだ?」

「えっ?えっ?あ、あの…」 

その反応は予想していなくて、思わずたじろいでしまった。

…あれ?僕、昨日入部しましたよね?

昨日の今日で、この反応。

あれ、結局冗談だったんですか…?

激しく困惑している僕の、その背後から。

「…おい、茶番はやめろ。お前が昨日無理矢理引き入れた新入部員だろうが」

助け舟とばかりに、タイミング良く佐乱先輩が調理実習室にやって来た。

そう、そうです。その通り。

「おぉ、そういやそうだった。忘れてたよ」

シャーペン片手に、ぽん、と手を打つ天方先輩。

…忘れないでくださいよ。

「全く…。悪いな、小羽根」

「いえ…。ありがとうございます…」

お陰で、天方先輩に思い出してもらえました。

更に、その佐乱先輩と一緒に。

「小羽根君だ。今日も来てくれたんだね」

「あ、はい…。えぇと、久留衣先輩…」

久留衣先輩も来てたんですね。

そういえば、佐乱先輩と同じクラスなんだっけ…。

それから。

「入り口に固まって、どうしたんですか。皆さん」

「あ…。弦木先輩…」

丁度、弦木先輩も調理実習室にやって来た。

これで、昨日見たメンバー、全員揃いましたね。