「これは思いがけない収穫でしたね。いつもウチをご贔屓にしてくれているとはいえ、無悪グループなんていう異国の金持ちパーティーに参加するなんて、面倒だと思ってたんですが」

「あ、あの…」

「サボってルルシーとデートに誘おうとしたら、怒って『さっさと行け』って蹴り出されてしまいましてね…。それで仕方なく参加しに来たんです」

そ、そうなんですか。

あ、ありがとうございます…?って、感謝するべきなのだろうか?

いっそ欠席してもらった方が良かったのでは?

ルルシーさん、って誰?

「そうしたら、この収穫でしょう?…いやぁ、見れば見るほど良い顔ですよ、あなた」

「は、はぁ…」

そんな、睨めつけるように見ないでください。

怖いんですけど。僕怖い。

助けてください、加那芽兄様。

「良いですか。風俗店と言えば、男が女にちょめちょめするのが主流だと思われていますが」

「はい…!?」

何の話ですか。唐突に。

「時代はジェンダーフリー。俺は時代の最先端を追求し、今度は、女が男にちょめちょめする店を作ろうと思うんです。きっと流行りますよ」

自信満々に何言ってるんですか。

僕は未成年ですよ。いや、成人しててもやめて欲しいですけどね。そんな話は。

「そしてあなたは、いかにも『そういう趣味の』女がいじめたくなる、可愛らしい顔をしている…。俺の目に狂いはありません」

出来れば狂っていて欲しかったです。

「そういう」趣味って何なんですか…?

知らなくて良い世界の扉が開きそう。

「という訳なので、俺の店でナンバーワンデリ●ル男子を目指しましょう。お給料は弾みますよ」

ガシッ、と両手を掴まれてしまった。

僕は悲鳴を上げそうになったが、その悲鳴は声にならなかった。

やっぱり。僕、今すぐ逃げないとヤバい。

何で僕、自宅でキャッチ行為を受けなきゃいけないんですか。おかしいですよ。

「あ、あの。僕はそういうことは…」

とにかく断らなきゃ。絶対断らなきゃ。

「大丈夫です。ちゃんと『予行練習』はしてあげますから」

予行練習…!?

「俺の店で働くホストは、男だろうと女だろうと関係なく、まず俺が一晩じっくりかけて『味見』して、味と品質を確認することにしてるんです」
 
味見…!?

「ほら、やっぱり『食べ物』を取り扱うお店は、品質に気を遣うんですよね」
 
食べ物…!?

「ですから、安心して俺のお店に来てくれて大丈夫ですよ」

この話を聞いて、「それなら安心ですね!」と胸を撫で下ろす人がいるのだろうか。

むしろ、余計恐怖心を煽られただけ。

自分が、何かとんでもないことに巻き込まれようとしていることはよく分かった。

…逃げねば。何としても。

「ぼ、僕はあの、」

「それじゃあ早速、飛行機のチケットを取っておきますね。俺と一緒にルティス帝国に帰って、来週から客取りを始めましょう」

いやぁぁぁぁ。

怪しい人に連れて行かれそうになって、涙目になったその時。

「失礼。ルレイア卿」

「ん?」

僕をこの窮地から救ってくれる、救世主が現れた。