やっぱり似合ってないから着替え直そうかなぁ、と思ったのだが。

志寿子さんは、「あらぁ。とってもお似合いですよ」と言ってくれたし。

いや、これは多分お世辞だと思う。

別の服に着替えたら、折角お下がりを譲ってくれた加那芽兄様に悪いかなと思って。

どうせ僕は、パーティーに出席するとは言っても、加那芽兄様達みたいに人前で挨拶することはないんだし…。

僕がどんな格好だろうと、気に留める者は一人もいないだろう。

…と、たかを括っていたのが間違いだった。



 
無悪家のお屋敷の中で、一番大きくて広い部屋…パーティー会場にもなっている大広間に向かうと。

丁度、今夜のパーティーが始まったところだった。

きらびやかな衣装に身を包んだお偉方が、楽しげな微笑みを顔に貼り付けて談笑していた。

顔は笑ってるけど、目は笑ってない…みたいな、不気味な笑顔に見える。

う…。やっぱり、僕にはとても入っていけそうにない。

…まぁ…僕は、そもそもあの話の輪の中に入っていく資格がないんだけど…。

仕方ないから、いつも通り壁際に立ち。

楽しげに動き回る大人達を、傍目に眺めていた。

…すると、その時。

「…ん?」

大人達が飲んでいるお酒や、会場に並べられた料理の匂いに混じって。

何やら、覚えのある香水の匂いを感じた。…ような気がした。

…この香りって…。何処かで嗅いだことがあるような…。

何だっけ?加那芽兄様の香水…?にしては、あまりにエキゾチックな香り。

エキゾチックな香水…あ、そうだ。思い出した。

「これ…『Black Dark Perfume』の…確か、『Black Midnight』っていう香水の香り…」

「へぇ。正解ですよ」

「!?」

驚いて、声のした方に顔を向けると。

そこには、黒い人が立っていた。