「大丈夫?小羽根君」

と、萌音先輩が聞いてきた。

「さっきから、全然お喋りしないから」

「あ…。済みません、ちょっと考え事をしてただけです」

しまった。話しかけられていることに気づかなかった。

今日は駄目だな、僕…。ずっとボーッとしちゃって…。

「何考えてたの?明日の小テストとか?」

「そうじゃないんですけど…。済みません、心配しなくても大丈夫です」

「まぁ、小羽根さんは小テストくらいでは狼狽えませんよね。普段からめっちゃ勉強してますし」

そ、そんな…僕だって、小テストの前は緊張したりしますよ。

「でも、もし体調が悪いなら、今日の部活はお休みしても良いですよ?」

と、唱先輩が言ってくれた。

「え。いや…平気ですよ」

別に体調が悪い訳じゃないですから。

「そうですか?無理しなくて良いですよ」

「本当に大丈夫です…。お気遣い、ありがとうございます」

授業でさえろくに聞けてないのに、部活までサボったんじゃ。

今日、何をしに学校に来たのか分からない。

部活くらいは頑張りますよ。

無理矢理入れられたに等しい部活動だけど、それとこれとは話が違いますからね。

…しかし、僕は失念していた。

今日の部活動が、何なのかを。

「それじゃ、今日も皆で部活動するか…先週の続き」

…え?先週の続き?

「癒やし動画を観たら、きっと小羽根君も元気が出るよ」

…え?癒やし動画?

「そうですね。どうぞ、小羽根さん。遠慮せず、センターで御覧ください」

唱先輩は、善意で、僕をテーブルの中心に座らせてくれた。

すると、まほろ部長がタブレットを取り出した。

「よーし。それじゃ先週の続き…動物の癒やし動画を観て、癒やされようぜ!」

ひぇっ。

僕は、思い出して顔が真っ青になった。

そうだった。先週の金曜日…ひたすら、ヘビの桃子ちゃんチャンネルの動画を観させられたんだった。

そして、週明けの月曜日…つまり、今日から観る動画は…。

「おっ、あったあった。タランチュラの鈴子ちゃんチャンネル、だって」

ぎゃぁぁぁぁ。やっぱり。

またしても。何でそんなに可愛い名前なんですか?

鈴子ちゃん、なんて可愛い名前の動物じゃないでしょ。それ。

あ、タランチュラ好きな人ごめんなさい…。

「タランチュラって、何食べるんだろう?」

興味津々で、しげしげと画面を見つめる萌音先輩。

萌音先輩なら、例え目の前にゴキブリが出てきても、「きゃー!」と叫ぶのではなく。

「あ、ゴキちゃんだー」とか言いながら、スリッパ片手に追いかけてそう。

偏見ですね。済みません。

でも、本当にやってそうなんですよ。

「萌音先輩…は、タランチュラ、平気なんですか…?」

恐る恐る、僕は萌音先輩に尋ねた。

すると、萌音先輩はきょとんとして。

「ほぇ?平気って何?クモ可愛いよ?」

「…」

そんな無邪気な顔をして言われてしまうと、僕としてはもう何も言えない。

「萌音はな、部屋にゴキブリが出てきた時でも、『わー、ゴキちゃんだー』とか言いながら追い掛け回してたから」

李優先輩が、そう教えてくれた。

やっぱり…そうなんだ…。