しかし、加那芽兄様が良かれと思って取り寄せてくれたその本が、後に一悶着起こす原因となる。
 
というのも、伊玖矢兄様がお戻りになった翌日。





「…ふー…」

夜の八時過ぎ頃。

僕はようやく、読みかけだった本を読み終えた。

もっとゆっくり読むつもりだったんだけど、次に待ってる『新装版 ルティス帝国英雄伝』を早く読みたくて。

ついつい、駆け足で読んでしまった。

本を読み終えた僕は、時計をちらりと見た。

…まだ、時間ありそうだな。

早速『ルティス帝国英雄伝』を借りてきて、読もう。

あの本は大作だし、今から新しい本を読み始めたら、ついつい調子に乗って宵っ張りしてしまいそうだが。

幸いなことに、明日は土曜日なので学校はお休み。

少々宵っ張りしても、問題ないだろう。

よし。早速借りに行こう。

僕は椅子から立ち上がって、本を借りる為に加那芽兄様の書斎に向かった。

…後から思えば、これが不味かったのである。

僕が加那芽兄様の書斎や、お屋敷の書庫から本を借りるのは珍しいことではなかった。

加那芽兄様もはっきりと「好きな時に好きな本を持って行って良い」と言ってくれていたし。

これまでも、何度も借りに行ったことがある。

本当に、24時間営業の図書館を利用するみたいな気持ちでいたのだ。

そこで今夜も、僕は加那芽兄様の書斎に向かった。

「失礼しまーす…」

そうっと書斎に入るも、中は無人だった。

今夜、加那芽兄様は帰りが遅くなると言っていた。

まだ戻ってきてないんですね。

それじゃ、勝手に本だけ借りていきます。

壁際にずらりと並ぶ、背の高い本棚の前に立つ。

相変わらず、凄い数の本。

この中から目的の一冊を探すなんて、さぞや骨の折れる作業かと思われたが…。

時間をかけて探す必要はなかった。

「えぇっと…『ルティス帝国英雄伝』…新装版の…。…あ、あった」

僕が迷わないように、加那芽兄様はちゃんと、分かりやすい位置に本を置いておいてくれていた。

さすが加那芽兄様。

早々に目的の本を見つけ、それを持って自分の部屋に帰ろう…と、した。

その時。

ガチャッ、と書斎の扉が開いた。