その後が、また情けない。

必死に泣くのを堪えながら、僕は自分の部屋に…子供部屋に戻った。

そして、一人で床に座り込んで、泣き出しそうになるのを我慢していた。

すると、そこに。

こんこん、と子供部屋の扉がノックされた。

びくっとして、慌てて顔を上げると。

「小羽根、いる?」

「…!」
 
扉の外から聞こえたのは、加那芽兄様の声だった。

「あぁいた、良かった。今日本屋で小羽根の好きそうな絵本が、ってどうしたの…!?」 

買ってきたばかりの絵本を、笑顔で持ってきた加那芽兄様だったが。

子供部屋で一人蹲って、泣き出しそうになるのを堪えている僕を見て、血相を変えた。

僕は僕で、泣きそうになっていたところを加那芽兄様に見られ。

ついに、僕の我慢が決壊した。

「ふ、ふぇぇぇ…」

「ちょ、小羽根どうしたの?何があったの?」

慌てて、加那芽兄様が駆け寄ってきて僕をぎゅっと抱き締めてくれた。

でも、優しくされると余計泣きたくなった。

加那芽兄様はこんなに優しい人なのに、伊玖矢兄様が全然違う人過ぎて。

当時、ようやく人の優しさに…加那芽兄様の優しさに触れて、人を信じることが出来るようになってきたばかりだったのに。

その一件で、一気に、また逆戻りしてしまったのは言うまでもない。

「よしよし、小羽根。良い子だね…。良い子だから、泣かないで。よしよし…」

「ふ、ふぇ…。うぅ…」

「君が泣いてると、私まで悲しくなってしまうよ。ほら、もう泣かないで」

加那芽兄様は抱き締めて、優しくポンポンと背中を叩いてくれた。

そのお陰で、僕はようやく少し、気持ちが落ち着いてきた。

何とか、無事に涙も止まった。

すると加那芽兄様は、心配そうな顔で尋ねた。

「一体どうしたの?何処か痛いの?それとも、何か悲しいことがあったの?」

「…そ、それは…」

先程の伊玖矢兄様との出来事を訴えるべきか、僕は迷った。

まるで告げ口するみたいじゃないか。

伊玖矢兄様に泣かされたのは事実だけど、伊玖矢兄様を悪者にはしたくなかった。

しかし、心配そうな加那芽兄様を前に、「何でもありません」は通用しなかった。

べそをかきながら、僕は先程の出来事を、ポツポツと語り始めた…。