一時間後。

「ふ〜、観た観た。めっちゃ癒やされた〜」

「飼ってみたくなりましたね。ヘビ」

…ヘビを見て癒やされるって、正気なんですか?

飼ってみたいって?本当に?

あまりに恐ろしくて、僕には無理です。

「…おい、小羽根大丈夫か?」

「ひぅっ…」

李優先輩が、僕の異変に気づいた。

…気づくなら、もう少し早く気づいて欲しかったですね。

今の僕は、もう駄目です。

ヘビどころか、細い紐でもロープでも、とにかく細長いものが目の前にあったら。

もう何もかも、ヘビにしか見えない。

「おーい。小羽根くーん。元気ー?」

萌音先輩が、僕の前でひらひらと手を振っていたけど。

返事が出来ません。

「どうした後輩君。ヘビちゃんが可愛過ぎてノックアウトされたのか?」

ノックアウトされているのは事実ですが。

可愛いんじゃなくて、怯えてるんです。

「めっちゃ可愛かったもんなー、ヘビ。あんなに人に慣れるとは…」

「匂いも鳴き声も気になりませんから、近所に迷惑もかかりませんしね」

それは確かにメリットですけど、僕はうるさくても臭くても良いから、犬や猫の方が良いです。

「よし。じゃあ明日は、タランチュラのペット動画を観てみようぜ」

ひぇっ!?

いや、待て。まだ希望はある。

「あ、明日は土曜日ですよ。まほろ部長」

「あ、そうか。じゃあ来週の月曜で!」

いやぁぁぁぁ。解決になってない。

「タランチュラって、飼えんの?」

「飼えるらしいぜ。ほら、検索おすすめ動画に…」

ぎゃぁぁぁぁ。サムネにタランチュラが。

正気か?この動画。

動画のタイトルは、ズバリ「【可愛い】タランチュラ飼ってみたww」。

飼ってみた、って草を生やしながら言わないでください。

タランチュラって、大丈夫なんですか?毒があるのでは?

か、噛まれたらどうするんだろう…?

「すごーい。強そう」

びくびくする僕とは正反対に、タランチュラ動画のサムネを見て目をキラキラさせる萌音先輩。

僕なんかより、よっぽど肝が据わっていらっしゃる。

無理。僕はもう無理です。

ヘビ、クモ、お断り。

動物系癒やし動画って、絶対そういうのじゃないです。

「じゃ、今日はここまでにして、続きは来週な!」

朗らかに言うまほろ部長。

…僕、来週…部活、サボっても良いですか?