とりあえず、闇バイト云々は冤罪なので。

かくかくしかじかで、兄からサンプルをもらっただけです、と説明。

唱先輩は、顔を抑えて天を仰いだ。

「…唱先輩…。大丈夫ですか?」
 
「…俺は逆立ちしたって、血の涙を流したって手に入らないものを…。無料でもらえるなんて…」

「…」

「不公平だ…。世の中は不公平過ぎる…。間違いなく今、今年一番辛い…」

「…」

…そうですか。

それじゃ、あのー…。えーと…。

「正直、あまりの嫉妬心に小羽根さんをぶん殴りたい。世の中の不公平を一身に背負った拳で、思いっきり小羽根さんの顔面をぶっ飛ばさないと溜飲が下がらな、」

「良かったら、このサンプル、唱先輩にあげましょうか?」

「小羽根さん、あなたは女神です」

両目をキラキラさせて、唱先輩は僕の前に跪いた。

「あなたのことは、最初に会った時から素晴らしい人徳者だと思ってたんですよ」

「そ、そうですか…」

今日、めっちゃ情緒不安定ですね。

『Black Dark Perfume』の香水には、唱先輩を狂わせる何かがある。

「すげー変わり身…。さっきまで殴りたいとか言ってたのに」

「小羽根…。無理しなくて良いんだぞ。お前が兄さんからもらったものなんだろ?」

「え?いや、良いんです。価値の分からない僕より、価値の分かる唱先輩に使ってもらった方が、香水だって嬉しいでしょうし」

何より、タダでもらったものなので。僕は特に惜しくないって言うか…。

「学校に香水を持ってくるのは、トラブルのもとなので…。住所、教えてもらって良いですか?ご自宅に郵送します」

「ありがとうございます!小羽根さん、一生ついていきます!」

それはやめてください。

…じゃ、帰ったら郵送の手続きをしようかな。