「でも、その…『Black Midnight』だっけ?その香水をつけてたら、何で小羽根が怪しいバイトをしてることになるんだ?」

僕の名誉の為に、李優先輩がそう聞いてくれた。

ありがとうございます。

「だって…。良いですか、俺は『Black Dark Perfume』の香水が大好きです。出来れば、毎日この香水をつけて生きていきたいくらいに好きです」

そうなんですか。

熱い想いを語ってくれてありがとうございます。

「ですが、それは出来ないんです」

「何で出来ないの?」

「やっぱり、香りが独特だからか?」

「違います。…お高いからです」

…あ、うん。

…そうなんだ。

凄く納得しました。

「そうなの?そんなに高いの?この間のパクチープロテインより高い?」

「馬鹿にしないでくださいよ。桁が違います」

少なくとも、パクチープロテインよりは高いのでは。

僕がもらったのはサンプルだから、実際にこの商品がどれくらいの値段で売られているのかは、全然知らない。

加那芽兄様も、「これは○○円もする香水なんだよ」なんて言わないし…。

しかし、唱先輩が教えてくれた、この香水の値段は。

それはもう、目玉が飛び出るような値段だった。

「マジ!?そんな高えの…!?プロテイン何個分だよ!?」

「わー、凄い。それだけあったら、鉛筆何本買えるかな?」

「多分、萌音が一生かかっても使い切れないくらいの鉛筆が買えるな」

…何故鉛筆?

「この香水…そんなに高かったんですね…」

「あなた、知らずに使ってたんですか?…ほら」

と言って、唱先輩はスマホで検索し、『Black Dark Perfume』の公式オンラインサイトを見せてくれた。

本当だ。オリエンタル・パフューム6番…『Black Midnight』。

そこには、とんでもない値段が記載されていた。

それなのに、この商品、品切れになってる。再入荷日未定、って。

…買う人、たくさんいるんだ。

こんな値段を出してでも、どうしてもこの香水が欲しいって人が…。

「こ、高級香水ブランドなんですね…」

「そうですよ。一番安いのでも…ほら、これです」

唱先輩が、スマホの画面を見せてくれた。

一番安い香水でも、それでも目を見張るほどのお値段。

これじゃ、しがない高校生には手が出ませんよ。

それこそ、さっき唱先輩が言ったような、怪しい闇バイトでもしてないと、絶対無理。

僕はこんな価値のあるものを、加那芽兄様からコネで無料でもらってしまったのか…。

…何だか、凄く申し訳ない。