翌日。

僕は早速、加那芽兄様にもらった『Black Dark Perfume』の商品サンプルを、手首にワンプッシュした。

あんまりキツい匂いだったら、クラスメイト達に迷惑かなと思ったので、控えめに。
 
前述の通り、『Black Dark Perfume』の香水は、好き嫌いが分かれる香り。

匂いに敏感なクラスメイトがいたら、不快な思いをさせてしまうかもしれない。

などと心配していたのだが。

ワンプッシュ程度だと、それほど強く香ることはなかった。

相変わらず、特徴的なオリエンタルノートの香りが漂う。

唱先輩曰く、シェルドニア・サンダルウッドの香りだそうだが…。

…まぁ、このくらいなら大丈夫そうかな。

クラスメイトの迷惑になることはなさそうだ。と、思う。

ということで、今日も元気に登校。

幸い、クラスメイトからは何も言われなかった。

「今日、なんか変な匂いがしない?」とか言われたら。

僕は今すぐ、水道で手首を洗い流していただろう。

これなら大丈夫かな、と思っていた矢先。





「こんにちはー」

放課後、僕はいつも通り、健康追求部の部室を訪ねた。

「お、後輩君が来たぞ。よしよし、よーく来たよーく来た。ほーらこっちにおいで」

まほろ部長が、ちょいちょいと手招きしてきた。

…何ですか。僕は飼い犬じゃないんですよ。

まほろ部長の手元には、何やら怪しげなタブレット端末が。

何ですかあれ。また、学校のパソコン室から借りてきたんだろうか。

ここ数日は比較的大人しかったのに、また新たな試みを始めるつもりなのかもしれない。

「まほろ部長…。今日は何を企んでるんですか?」

「企んでるとは、人聞きの悪い。健康追求部として、今日も元気に部活動をしようとしてるだけじゃん」

「そんなこと言ってまほろさん、いつも通り動画をあさっ、!!」

…え? 

呆れたように、まほろ部長にツッコミを入れていた唱先輩が。

突然喋るのをやめて、両目をかっぴらいて、愕然とこちらを向いた。

な、ななな、何?