ともあれ、先輩方に香水の感想を聞くという、当初の目的は果たした。

「そ、そうですか…。えっと、感想ありがとうございます。これを兄に伝え、」

「ちょっと待ってください。まだ、一つ一つの香水の特徴について語ってません」

えっ?

「それぞれ感想を述べていきますから、ちゃんとメモってくださいね」

え、えぇぇぇ。

まだ語るんですか…?

も、もう充分聞いたような気がするんですけど…。

「まずAの香水から。こちらはいかにも『Black Dark Perfume』のオリエンタルノート・パフュームらしく、上品で華やか、かつ妖艶な香りが特徴ですね。ただただけばけばしいのではなく、柔らかく仄かな甘さの中に、気品溢れるエキゾチックな香りが…」

語彙力が。唱先輩の豊富な語彙力が爆発している。

ちょっと待ってください。メモしきれない。

うっとりと語り始める唱先輩は、もう誰にも止められなかった。

それを見た先輩方は。

「…暇だな。これは当分終わりそうにないぞ」

「萌音、購買でお菓子とジュース買ってくるねー」

「ちょっと待て。俺も行く」

「あ、自分も自分も」

聞いていられないとばかりに、戦線離脱。

ちょっと。僕を置いていかないでくださいよ。

「ちょ、ま、先輩…!」

「小羽根さんっ?今感想喋ってるんだから、気を抜かずにちゃんとメモしてください」

すかさず、唱先輩がこちらを睨む。

す、すすす済みません。

「は、はい…。どうぞ、続けてください」

「えぇ勿論です。次にBの香水ですけど、こちらもシェルドニア・サンダルウッドをベースに、ラベンダーの香りで更に幅を持たせ…」

あぁ…止まらない。メモを書く手が止められない。

僕、これ、今日…ちゃんと下校時間までに帰れるだろうか…?