これが、李優先輩の言う「変なスイッチ」なのか。

めちゃめちゃ元気じゃないですか。

「オリエンタルノート・パフュームは、かなり好き嫌いが分かれる香水なんですね。海外では割と主流なんですが」

「ま、まぁ…。結構、独特な匂いですもんね…」

甘くて妖艶で、嗅いでると…ちょっと、変な気分になってくる香り、って言うか。

好きな人は好きなんでしょうけど、万人受けする香りではないような気がします。

納豆やパクチーと同じですよ。

「萌音はこの匂い、好きだよ」

「そうか…。俺も嫌いではないな」
 
萌音先輩と李優先輩の感想は、実にシンプルだったが。

「この香水は、トップノートにイランイランの香料を使って、スパイシーで芳醇な甘さを生み出していますね。甘さの中に、洗練された上品さを感じます」

そう語る唱先輩は、まるで香水のスペシャリストのよう。

す、凄い語彙力をお持ちだ。

この香水を嗅いで、そんな言葉は出てきませんよ。僕は。

「え、えぇっと…。それじゃ…別の香水も嗅いでみてもらえますか…?」

まだまだあるんですよ。BからEまで。

全部嗅いで、感想を聞かせてください。

「勿論です。あ、その都度換気をさせてくださいね」

嗅覚を鋭敏に保つ為に、唱先輩は部室の窓を開けて換気した。

どうぞどうぞ。もう、ご自由に何でも。

それぞれ、BからEの香水を順番に、先輩達に嗅いでもらった。

最初は、テンションマックスだったまほろ部長は。

「ん…んん…?これ、5種類共匂い、違うんだよな?」

「はい…。どれも種類は違うはずです」

「マジかよ。香りの違いが全然分からねぇ。どれも同じなんじゃねーの?これ」 

あ、僕と同じこと言ってる…。

やっぱりそう思いますよね。

しかし、唱先輩は。

「こんなに特徴的だというのに…。これら全てが同じ匂いだなんて、鼻が馬鹿ですね」

ぐさっ。

済みません。馬鹿鼻です。

「ベースのシェルドニア・サンダルウッドは変わらず、トップノートの香りを少しずつ変えることで、香りに変化を持たせているようですね。Bはラベンダー、Cはレモングラス、Dはガルバナム、Eはチュベローズ、のように」

嘘でしょう、唱先輩。

それぞれの香水に配合されている香料の種類が分かるんですか。

嗅いだだけで?そんなことまで?

「確かに、それぞれ少しずつ匂いが違うもんな」

「どれも良い匂いだけど、萌音はEが一番好きだな」

李優先輩と萌音先輩も、これらの香水の微妙な香りの違いが分かるらしい。

もしかして、僕とまほろ部長だけが馬鹿鼻仲間なのか…。

「どれも素晴らしい香りです。さすが、『Black Dark Perfume』の香水ですね。製品化されたら、真っ先に買いたいです」

唱先輩、うっとり。

凄い…。こんな唱先輩は初めて見た…。

これが、スイッチの入った唱先輩なのか…。まさかこんなことでスイッチが入るとは。