香水瓶の蓋を開け。

ほんの数滴、ムエット紙に染み込ませた瞬間。

唱先輩が、目をカッとかっぴらいていた。

一方、まほろ部長や李優先輩、そして萌音先輩の反応はこんな感じ。

「おぉ〜!めっちゃ良い匂い!」

「なんつーか…。エキゾチックな匂い、って感じか?」

「ほぇー。良い匂いだ〜」

第一印象って大切ですもんね。

これらの反応を、僕は手帳にメモした。

「この香りを『frontier』のメンバーがつけてると思うと、凄く新鮮な感じ、って、おぉっ!?」

「ちょっと退いてください」

しみじみと香りを嗅ごうとしたが、その前に。

唱先輩が、Aの香水が染み込んだムエット紙を鷲掴みにした。

え、えぇ?

「と、唱先輩…?どうしました…?」

「ふー…。すー…。はー…」

ムエット紙に染み込んだ香水の香りを、胸いっぱいに吸い込んでいらっしゃる。

だ、大丈夫ですか?

「やべぇ…。唱の奴、変なスイッチが入ってるな」

李優先輩が萌音先輩を連れて、そっと距離を取った。

変なスイッチ、って…?

「ふんふん…。こ、これはやっぱり…!」

「と…唱先輩?どうしたんですか…?」

「この芳醇で、妖艶な香り…。間違いない。この香水…『Black Dark Perfume』の香水ですよね?」

「えっ?」

ぶらっく、だーく…ぱふゅーむ?

「知らないんですか?小羽根さん。『frontier』とコラボしたって、今言いましたよね。『Black Dark Perfume』は、以前も『frontier』とコラボしたことがあるんですよ。ってことは第二弾なんですね」 

突然、両目に輝きを称えた唱先輩が、流暢に喋り出した。

「この香り…。やっぱり間違いない。サンダルウッドの香りです」

「…サンダル?唱君。何それ?」

「白檀のことです。上品で華やか、エキゾチックな香りが特徴の香料です」

え、そうなんですか?

何処かで嗅いだことのある香りだな、とは思ってましたけど…。

そうか。これ、白檀…サンダルウッドの香りなんだ。

素敵な香りですよね。

「それも、ただのサンダルウッドじゃありません…。『Black Dark Perfume』で売られているオリエンタルノート・パフュームはどれも、独自のルートで入手した特殊な香料、シェルドニア・サンダルウッドという香料を使っているそうです」

「は、はぁ…」

「『Black Dark Perfume』の主力商品は、この貴重なサンダルウッドをふんだんに使った、オリエンタルノート・パフュームなんです」

「へ、へぇー…」

「『Black Dark Perfume』で販売されているオリエンタルノート・パフュームは、必ずこの香料を使っているんです。だから、嗅いだらすぐに分かります。一嗅ぎして、『はっ!』って思いましたよ」

「ふ、ふーん…」

「この芳醇な香り…!なんて素敵なんでしょう。『Black Dark Perfume』は香水業界ではまだまだ新参者ですが、この香水ブランドは天下を取れる実力があると思いますよ」

「そ、そう…ですか」

…あの。 

唱先輩が止まらなくなっちゃったんですけど、これ大丈夫ですか?