そこに座って待ってて、と言われたので。

加那芽兄様の部屋のソファに座って、しばらく待っていると。

「はい、小羽根。お待たせ」

加那芽兄様は、小さな紙袋を持って戻ってきた。

それから、テーブルの上に、紙袋の中から取り出した小さな透明の小瓶を、いくつも並べ始めた。

小瓶には、それぞれA、B、C…とアルファベットを記入したラベルが貼られている。

更に小瓶の中には、15mlほどの透明な液体が入っていた。

…これって…。

「加那芽兄様…。これって、もしかして香水ですか?」

「大正解。今度発売予定の香水の試作品なんだ」

やっぱり。

「小羽根も知ってるよね。『frontier』っていうアイドル」

「『frontier』?はい…」

まほろ部長が好きなアイドルグループですよね。

「その『frontier』と、私が取引してる香水会社がコラボしてね。その関係で、試作品のモニター調査を頼まれたんだ」

ふむふむ、成程。そういうことでしたか。

『frontier』とコラボした香水…。それは是非、僕じゃなくてまほろ部長にモニター調査をお願いしたかったですね。

きっと大喜びで引き受けてくれたと思いますよ。

「それぞれのメンバーをイメージした香水、をコンセプトに作ったそうなんだけど…。小羽根、忌憚なき意見を聞かせてもらえるかな」

「は、はい…分かりました。頑張ります」

「そんなに緊張しなくて良いんだよ」

そう言われても、やっぱり緊張しますよ。

だって、僕の意見が加味されて、この香水が売り出されるかもしれないんでしょう?

僕が変なこと言っちゃったら、香水の売り上げにも関わるかもしれない。

ひいては、『frontier』さんのイメージダウンに繋がるかもしれないのだ。

大変なことですよ、これは。

もしそんなことになったら、僕が『frontier』ファンの方に…まほろ部長に叱られるじゃないですか。

真剣に取り組まなくては。

「順番に香りを嗅いで、感想を聞かせてくれる?」

「は、はい。えぇっと…」

まず、Aの香水から。

…うーん…。

「どう?」

「い…良い匂い…ですけど、ちょっと…なんて言うか…強烈、ですね」

「成程」

さらさら、とメモを取る加那芽兄様。

しまった。つい思ったことが口に出ちゃった。

もっと加那芽兄様の参考になることを言わなきゃ。

「その…ゴージャスな香りだと思います」

そう。そんな感じの感想を言おう。

それじゃ、次はB。

「うーん…。えぇっと…。ちょっと…え、華やかな香り、ですね…?」

「ふむふむ、成程…。Cは?」

「Cですか?Cはその…う、うーんと…あ、明るい感じの匂い…?」

「ふむふむ…」

自分の語彙力の少なさに、涙が出そうになる。