その日の夕方のこと。

無悪家の屋敷に帰ると。

「あぁ小羽根、お帰り」

待っていたかのように、加那芽兄様に迎えられた。

「ただいま、加那芽兄様…」

「小羽根が戻ってくるのを待ってたんだよ」

あ、やっぱり待ってたんですか…。

それは申し訳なかったです。

「そうだったんですね。仰ってくれれば、早めに戻ってきたのに…」

「いやいや、別に急ぐ用事じゃないから。帰ってきたら頼もうと思ってたんだ」

「…頼む?」

加那芽兄様が僕に頼み事なんて、珍しい。

加那芽兄様は器用な人だから、大抵のことは人に頼らず、何でも自分で解決してしまうのだ。

僕が頼りない弟なのは分かってるけど、もう少し頼ってくれても良いのになぁ、と。

常日頃から思っていた。

「うん。小羽根の意見を聞きたいんだ」

あ、成程。

「また、お仕事の関係ですか?」

「そうだよ。今回は対象が若い人…特に、高校生から大学生が対象なんだ」

じゃあ、僕はばっちりど真ん中ですね。

「手伝ってもらって良いかな?」

「勿論です。加那芽兄様のお手伝いが出来るなら、何でもやりますよ」

「…」

快諾すると、何故か加那芽兄様は無言だった。

な、何で…?

「…加那芽兄様?」

「…可愛い…そして尊い…。なんて良い子なんだ…」

ぶつぶつ。

…。

「…あの。本題に入ってもらって良いですか?」

「おっと、そうだったね。じゃあ早速…ちょっとついてきてもらえるかな」

はい、分かりました。

僕は加那芽兄様に連れられて、加那芽兄様の部屋に向かった。

お邪魔します。

「それで、何をすれば良いですか?」

「はぁ、小羽根が可愛い…。出来れば仕事なんてせずに、このまま寝るまで小羽根を愛でていたい…」

「用がないようなら、帰って良いですか」

「ちょっと待った。今説明するから。帰ろうとしないで」

そうですか。

じゃ、帰るのはやめておきます。