僕も嫌いではないですねどね。ヒヤシンスの香り。

「あぁ、もう気持ち悪くなってきた」

しかめっ面をしていた唱先輩が、ついに我慢の限界を迎えた。

そして窓に近づくと、ガラッ、と窓を開けた。

あぁ。新鮮な空気。

「ちょっと空気を入れ替えてください」

「え。唱君、そんなに駄目か?…もー、仕方ないな…」

唱先輩の強硬な反対を受け。

仕方なく、ヒヤシンスのアロマオイルをしまう。

「じゃあ、別の香りにしてみようぜ。…これならどう?」

またしても、今度は別の香りのアロマオイル。

部屋の中に、今度は爽やかな香りが広がった。

あ、この匂いは…。

「ほわー。良い匂いだねー」

「おぉ…。さっきより爽やかな匂いで良いな。しかし、どっかで嗅いだことある匂いのような…」

李優先輩、それ分かります。

「どう?後輩君。この匂いは知ってる?」

「あ、はい…。多分ですけど、ベルガモットの香りですよね」

「正解!」

今度はシトラス系の香りですね。

僕は男性だからかもしれないけど、さっきのヒヤシンスより、こっちの方が好き。

アールグレイ・ティーの香りですね。

「ふむ、さっきよりはマシですけど…それにしても強烈ですね」

相変わらず、唱先輩はハンカチで鼻を抑えている。

「唱先輩、香料の香りは嫌いなんですか…?」

「嫌いなんじゃありません。むしろ、香水は好きなんです…。だからこそ、この安っぽい香りが鼻について、イライラするんですよ」

えっ?

「安っぽい人工香料の香りですよ、これ」

「そ、それは…」

「まー、このアロマオイルセット、ネットで買った激安商品だからな」

「部費に余裕ないからな。俺達」

要らないもの買い過ぎなんですよ。…パクチープロテインとか。

成程、唱先輩は嗅覚が鋭敏であるらしい。

それ故に、安価な香料で作られた、質の悪いアロマオイルの香りは苦手なようだ。

…かなりこれ、強烈ですもんね。匂い。

正直僕も、嗅いでると「うっ」ってなる。

「唱君、これ嫌い?そんじゃこっちは?」

と言って取り出したのは、ペパーミントのアロマオイル。

うーん。こっちもなかなか強烈。

「これは…なんて言ったら良いかな…。チョコミントアイスみたいな?」

李優先輩、なかなか鋭いですね。

「歯磨き粉の匂いだー」

萌音先輩。間違ってはないかもしれませんが、でも萌音先輩の家の歯磨き粉は、いちご味だったはずでは?

「唱先輩…。ペパーミントの香りはどうですか?」

「キツ過ぎて気持ち悪いです」

とのこと。

…窓、開けておきましょうか。