萌音先輩にとっては、恋人が作ってくれた料理。

パクチーだろうとプロテインだろうと関係ない。

「も、萌音先輩…。美味しいですか?」

「李優のご飯はいつでも、何でも美味しいよー」

もぐもぐ。

昨日、萌音先輩は、水で溶いただけのパクチープロテインを、平気でぐびぐび飲んでましたもんね。

それが蒸しパンに形を変えても、関係なく、美味しく食べられると。

「すげーな、萌音ちゃん…。何でも食うじゃん」

「俺も食べて良いですか?」

「遠慮なくどうぞ」

恐れ知らずの唱先輩が、パクチー蒸しパンを口にした。

勇気あるなぁ…。

「どう…ですか?唱先輩。味…」

「うん。悪くないですよ」

本当?

李優先輩が苦労して作ってくれた手前、不味くて食べられません、とも言えず。

一方、まほろ部長は。

「うん?うん?うーん…?ふむふむ…」

昨日、思いっきりマーライオンしていたにも関わらず。

躊躇いなく、パクチー蒸しパンにぱくついていた。

首傾げてますけど。

「…美味しいんですか?」

「いや、ぶっちゃけ美味くはない」

本当にぶっちゃけてますね。

「でも、不味くて食えないってことはない。パクチーを練り込んだパンって感じ」

と言いながらむしゃむしゃ食べてるので、不味くないというのは本当なのだろう。

な、成程…。

それでも、昨日パクチープロテインを飲んで、胃が反乱を起こしたことを思い出すと。

なかなか、箸が進まないと言うか…手が伸びません。

すると、そんな僕の心情を慮ってか、

「無理しなくて良いぞ、小羽根。苦手だったら食べなくても」

と、李優先輩が言ってくれた。

ありがとうございます。

…でも。

「いえ、いただきます…。折角、李優先輩が作ってくれたものですから」

「そうか?…口に合わなかったら、残して良いからな」

僕は、意を決してパクチー蒸しパンを手にして。

はむっ、と口に入れた。

う…ん…??

「…どうだ?」

「あれ…。意外と美味しい…」

「本当か?」

本当です、本当です。

匂いは凄いけど、パクチーの強烈な風味は、かなり抑えられている。

意外とまろやかな味で、健康的な蒸しパンって感じ。

「さすかですね、李優先輩…。あの不味かったパクチープロテインを、こんな風にリメイクするなんて…」

「李優は凄いんだよ」

僕が李優先輩を称賛すると、何故か萌音先輩が胸を張っていた。

自分の恋人を褒められたのが嬉しいらしい。

「これで、部費が無駄にならずに済んだな!」

「…金輪際、プロテインは勘弁してくれよ」

李優先輩、切実な訴え。

プロテインが悪いんじゃないですよ。パクチーが苦手な僕達が悪いんです。