健康の十箇条…。僕も意識して守らないと。

健康追求部の部員じゃなくても、誰でも気をつけなきゃいけないことですね。

「僕も健康の為に、出来ることはやらないと…」

と、呟いたその時。

「おーい、お前ら。出来たぞ」

「あ、李優先輩…」

部室の扉が開いて、ずっと不在だった李優先輩が入ってきた。

お帰りなさい。

「出来たぞ」って、何が…?

「おぉ、李優君。どうだい?特別任務の方は」

「何が特別任務だよ…。面倒なこと頼みやがって」

面倒なことって…まほろ部長は、一体何を頼んだんだろう?

「とか言いながら、やってくれたんだろ?」

「やったよ…。俺だって、そのまま捨てるのは勿体ないからな」

「わーい。李優お帰り〜」
 
萌音先輩が、李優先輩に駆け寄った。

「おぉ…。ただいま、萌音」

特別任務とやらを押し付けられて、不機嫌そうだった李優先輩だったが。

それでも恋人の萌音先輩を見ると、途端に笑顔になった。

仲睦まじくて何より。

「李優先輩…。何してたんですか?さっきまで…」

「あぁ。ちょっと…これ、作ってた」

…これ?

「これだよ。ほら」

そう言って李優先輩は、持ってきた大きなお皿のラップを取った。

何かと思えばそれは、ふっくらと焼き上がった、薄い緑色の蒸しパン。

「えっ…。これ、李優先輩が作ったんですか?」

「あぁ。まほろに頼まれてな」

頼まれて、蒸しパンを作れる李優先輩のポテンシャルの高さよ。

さすがと言わざるを得ない。

しかも、この蒸しパン…。

…何だか、覚えのある匂いが漂っている。

「これ…パクチーの匂いですか」

唱先輩が、いち早く気づいて指摘した。

本当だ。これ、パクチーの匂いだ。

「ぱ、パクチー蒸しパン…?」

「昨日のプロテインだよ」

えっ。

「味は酷いもんだったが、折角部費で買ったプロテインを、捨てるのは勿体ないだろ。だから、何とか食べられるようにしてくれって、まほろに頼まれてな」

「それで…蒸しパンにしたんですか?」

「あぁ。色々調べて、食べやすくなったと思うんだが…」

凄いですね。李優先輩。

あの激マズパクチープロテインが、まさかこんな形に変わるなんて…。

「それでも、パクチー臭は消えてませんね」

くんくん、と匂いを嗅ぐ唱先輩。

えぇ…漂ってますね。部室の中に。パクチーの匂いが。

「これでも、色々と頑張ったんだぞ。砂糖と蜂蜜をたくさん入れて、パクチーの味を誤魔化してな…」

「そ、そうなんですか…。頑張りましたね」

「食べられるようになってると思うんだが…」

「もぐもぐ」

…。

横を見ると、萌音先輩が誰よりも先に、李優先輩作のパクチー蒸しパンを頬張っていた。

…萌音先輩は、恐れるということを知りませんね。