怪しい気配がするから、今すぐ回れ右して退散しようかと思ったのだが。

「おっ。後輩君が来たぞ」

「あぁ。本当ですね」

ぎくっ。…バレた。

逃げようと思ったのに…気づかれてしまったら、逃げるに逃げられず。

「さぁさぁ、入り給え。今日も元気に部活動しようぜ」

「何ですか…。今日は何をやってるんですか?怪しいので帰りたいんですけど…」

「帰るんじゃない。我々は健全な。そう、健全な部活なんだからな」

本当に健全な部活だったら、自分達のことを「健全」だと主張したりしませんよ。

「ほら、後輩君も今すぐ着替え給え。体操服持ってんだろ?」

「…持ってますけど…」

今日は午前中に体育の授業があったから、体操服は持ってきている。

でも…放課後に着る予定はなかったんですけど?

「じゃ、さっさと着替えて」

「ここで、ですか…?萌音先輩もいるのに…」

さすがに女性がいる前では着替えられませんよ。

しかし、萌音先輩は。

「大丈夫だよ。萌音、目ぎゅーってしてるから」

と言って、両手で両目を覆った。

いや、そういうことじゃないんですって。

「ほら。萌音ちゃんが目ぇ隠してる間に、急いで着替えろって」

「ちょ、いや、あの。それなら更衣室に行って着替え、」

「ほらほら、何恥ずかしがってるんだよ。男同士だろ?」

…別に恥ずかしがってません。最低限のエチケットの話です。

気持ち悪いこと言わないでくださいよ。

分かりました、分かりましたよ。

「着替えますから…。ちょっと待っててください」

「おうよ、宜しく!」

仕方がないので、鞄から体操服を出して、その場でコソコソ着替える。

萌音先輩、目隠しを取らないでくださいね。

「もーいーかーい?」

そんな、隠れんぼじゃないんですから。

「も、もうちょっと待ってください」

「良いよー。5、4、3、2…」

ちょ、カウントダウンしないでください。

余計焦るじゃないですか。

「もーいーかーい」

「も、もう良いですよ…」

「やったー」

はぁ、焦った…。

でも、着替え終わりましたよ。

「それで…?今日から何をするんですか…?」

昨日、まほろ部長は、李優先輩と一緒に部活動名称変更届けの用紙を取りに行っていた。

ってことは、またしても、またしても部活動が変わるんだろうか。

…今度は何部?

するとまほろ部長は、よくぞ聞いてくれたとばかりのドヤ顔になった。

あっ、聞かなきゃ良かった…。

「良いか、後輩君。世の中は今、空前の健康ブームだ」

「…そうなんですか?」

「そこで自分達は今日から、健康追求部と名を変え、健康を追い求める活動を行うことにした」

…何で、そうなるんですか?