「そうじゃなくて、久留衣せん、いや、萌音先輩のノートです」

「萌音の?」

「済みません、そんなつもりはなかったんですけど…。自分のノートと間違えて、萌音先輩のノートの中を見てしまって…」

「萌音のノート、見たの?」

…大変申し訳ございません。

誓って言いますけど、あれは事故なんです。

「…済みません」

事故とはいえ、見てしまったものは事実なのだから、素直に謝罪。

「そっかー」

「…本当に済みません…」

「別に怒ってないよ。萌音も小羽根君のノート見ちゃったし」

そ、そういえばそうでしたね。

両者痛み分けと言いますか…両成敗と言いますか。

お互い様、ってことですね。

でも、その…。僕のノートは自作SF小説でしたけど。

一方、萌音先輩のは…。

「えっと…あの…失礼なんですけど…聞いても良いですか?」

「うん」

「あのノートって…一体…?」

「萌音の宝物だよ」

と言って、萌音先輩は件のノートを取り出し。

隠すことなく、そのページを開いた。

目の前で開いたので、これは見ても良いってことですよね…。

改めて、ノートの中を見せてもらう。

…相変わらず凄い。

「あの…これは…日記、ですか?」

日記と言うか…日誌と言うか…記録帳?

物凄く詳細な、萌音先輩の一日の記録が綴られている。

何年何月何日何曜日、今日の天気。

何時に起きて何時に顔を洗って、何時に朝ご飯を食べて、何時に家を出て。

何時に学校に着いて、誰に挨拶して、一時間目の授業は何で、どんなことを習って。

二時間目は、三時間目は…と続いていって。

昼休みは誰と何を食べて、どんな話をして。

五時間目は、六時間目は、掃除の時間は何処を誰と掃除して、どんな話をして。

放課後は何時に部室に来て、何をして、部員達とどんな話をして、何時に学校を出て。

何時に家に着いて、夕食は何を食べて、何時にお風呂に入って、何時にテレビを観て、そのテレビ番組の内容はこうで。

何時にベッドに入って、その晩どんな夢を見たか…。

そういう一日の記録が、実に詳細に書いてある。

毎日毎日、一日も途切れることなく。

「…」

…最初見た時は、凄いなと思う反面。

正直、ちょっと不気味じゃないか?と思った。