僕の小説ノートが、部活メンバーにご開帳されてしまった翌日、の放課後。

傷心の僕は、ふらふらしながら部室に向かった。

「アレお前の妄想小説なんだろプププw」と馬鹿にする部員が一人もいないのは、せめてもの救いである。

その点は皆優しいですよね。ありがとうございます。

でも、忘れてください。

あぁ…泣きたい。

「…失礼します…」

「あ、小羽根君だー。いらっしゃい」

部室の中にいたのは、なんと久留衣先輩だけだった。

…あれ?

「…?久留衣先輩だけなんですか?」

「?萌音ちゃんって呼んで良いよ」

いや、だからそれは。

「えっと、他の先輩方はどちらに?」

「んーとね、李優とまほろ君は、『部活動名称変更届け』を取りに行ったよ」

またですか。また部活変えるつもりなんですか?

取っ替え引っ替えじゃないですか。

「じゃあ、弦木先輩は…?」

「購買にジュース買いに行ったよ。萌音が行こうと思ったんだけど、李優が『お前は駄目だ』って言うから」

それは賢明な判断ですよ、佐乱先輩。

久留衣先輩に頼んだら…またとんでもない炭酸飲料を買ってきそうだから。

弦木先輩なら大丈夫だろう。きっと。

「萌音が一人でお留守番してたんだー。偉いでしょ」

「そ、そうですね…」

部室に…久留衣先輩と二人きり…か。

初めてですね。こんなこと。

…。

…何だか、ちょっと気まずい。

久留衣先輩の方は、僕と二人きりでも、まったく緊張していないようで。

椅子に座って、脚をぷらぷらさせていた。

…僕も…昨日の一件さえなければ、別に緊張することなく話せたんだけど…。

「…?小羽根君、どうしたの?」 

「えっ?」

「何だか、じーっとこっち見てるから」

し、しまった。

無意識に、久留衣先輩を見つめてしまっていたらしい。

違うんです。別に疚しいことは何も考えてなくて。

「??小羽根君?」

「あ、あの…」

…どうしよう。聞いちゃって良いのかな。

僕が気にしているのは、昨日…自分の小説ノートを久留衣先輩に見られてしまったことではない。

その逆。

僕が、久留衣先輩のノートを見てしまったことだ。

敢えて言わなかったけど…。あれを見た時、実はかなり衝撃だったんですよね…。

「…あの、久留衣先輩…」
 
「萌音でいーよ」

「え、じ、じゃあ…萌音先輩…」

「なーに?」

「昨日の…その、ノートのことなんですけど…」

「?小羽根君の小説のこと?」

…そっちじゃありません。

そっちはもう忘れてください。