『それに、なかなか悪くないじゃないか。料理研究部…だったね』

「え?あ、はい…」

『面白そうな部活動じゃないか。小羽根は手先が器用だし、意外と合ってるんじゃないかな』

…意外。

加那芽兄様は、料理研究部に肯定的な意見をお持ちのようだ。

と言うか…昔から、加那芽兄様は僕のやること為すことを否定したことは一度もないけど…。

「そうでしょうか…?」

『それに、料理というのは生活する上で非常に重要なスキルだからね。習得しておいて損はないと思うよ』

ほら。こうして、何でもそれらしい理由をつけて、僕のやることを肯定してくれる。

「本当に、そう思います?」

『あぁ、思うよ。学生のうちに、ありとあらゆる分野に精通するのは悪いことじゃない。小羽根がその気なら、しばらく続けてみたらどうかな』

「…はい。分かりました」

加那芽兄様がそう言ってくれるなら。

僕も、もう少し前向きに考えてみます。

『…それにしても、私が在学中は、料理研究部なんてなかったような気がするんだが…』

…え?

『新たに新設されたんだろうか…。いや、そんなことはどうでも良いな。それより、さっさと四人の部員達の素性を調査して…』

「…加那芽兄様?」

『おっと、済まない小羽根。良いかい、もし辛いことや嫌なことがあったら、何でも私に言うんだよ』

「はい…」

これも、いつも加那芽兄様が僕に言う言葉だ。

いくつになっても…まるで小さな子供をあやすように。

『来週にはそっちに帰るからね。お土産を楽しみにしていると良い』

「…はい…」

『それじゃあ、そろそろ切るよ。おやすみ。小羽根』

「はい、おやすみなさい…」

と言って、僕は加那芽兄様との通話を終えた。

…言われるままに、「おやすみなさい」という挨拶を返したけれど。

加那芽兄様の方は、これから朝なのでは?

おはようございます、の方が良かったかな…。いや、それも変か…。

ともかく、例の料理研究部に関しては、加那芽兄様も許可ももらった。

成り行きで入部させられた部活動だけど、前向きに、しばらく続けてみようと思う。

これも何かの縁。貴重な経験だと思って。






…この時の僕は、自分が入部した「料理研究部」の本当の正体を、まだ知らなかった。