す、凄い反応ですね。

「ほんと?ほんとに持ってるの?嘘じゃない?」

「う、嘘じゃないですよ。ちょっと待ってください。今出しますから…」

僕は鞄の中から、昨日間違えて持って帰ったノートを取り出した。

「えっと、これなんですけど…。これ、久留衣先輩のですか?」

「…!うん、それ。それ萌音の」

やっぱり。

じゃあ、昨日テーブルに鞄の中身をぶちまけた時に、僕が間違って持って帰っちゃったんですね。

それは申し訳ない。

「見つかって良かったです。これ…」

「…小羽根君。返してくれる?」

え?

久留衣先輩は、何故か怯えたような表情だった。

「それ、萌音の大事なノートなの…。お願いだから返して。何でもするから」

「は、はい?」

「宿題写させてあげるから。あ、でも萌音と小羽根君は学年が別だったんだ。じゃあ…学校の行き帰りの時、鞄持ってあげるから」

…何処の不良学生ですか?鞄を他人に持たせるなんて。

「やりませんよ、そんなこと…」

「じゃあ…じゃあ、萌音の一番好きなアイスクリームを食べさせてあげる。お高いから滅多に行けないんだけど、ノートを返してもらう為なら何でも…」

…あの。久留衣先輩、さっきから何を誤解しているのか知りませんが。

「別に何の代償もなくても…久留衣先輩のノートなんだから、ちゃんと久留衣先輩にお返ししますよ」

と言って、僕は久留衣先輩のノートを差し出した。

「返して欲しけりゃ○○しろ」なんて意地悪は言いませんよ。

「えっ…。返してくれるの?」

「当たり前じゃないですか」

返してもらう為に代償なんか要求したら、僕が佐乱先輩に怒られますよ。

そんな意地悪はしません。

「はい、どうぞ」

「…!ありがとう、小羽根君…」

と言って、久留衣先輩はノートを受け取った。

そして、それを宝物のように、ぎゅっと抱き締めた。

実際宝物だって、さっき言ってましたもんね。

「良かった…。李優、小羽根君が返してくれたよ」

「見つかって良かったな、萌音…」

よしよし、と佐乱先輩は久留衣先輩を撫でてあげていた。

微笑ましい。

…それだけに、自分の責任じゃなくても申し訳ない。

「…あの、済みません。昨日、久留衣先輩が鞄の中身を全部出した時に、僕が自分のノートと間違えて、久留衣先輩のノートを持って帰っちゃったらしくて…」

素直に白状。

僕の注意不足のせいで、久留衣先輩に丸一日悲しい思いをさせてしまった。

「あぁ、やっぱりあの時だったのか…。俺達もそう思って、部室を探し回ったんだけど…。見つからなかったから、誰かが間違えて持っていったんじゃないかって思ってたんだ」

「本当に済みません…」

「いや、良いんだよ、小羽根。お前のことだし、悪気はなかったんだろ」

…佐乱先輩…。

「こっちの注意不足だ。むしろ、ちゃと保管しててくれてありがとうな。お陰で助かった」

僕が謝らなきゃいけないのに、むしろ感謝の言葉を告げられてしまうとは。

佐乱先輩の心の広さに、脱帽。