その数時間後。

深夜、日付が変わってしばらく経った頃。

今か今かと待っていた僕のもとに、ようやく。

待ち望んでいた瞬間がやって来た。






「あ、加那芽兄様…!お帰りなさい」

「ただいま、小羽根」

大きなスーツケースを手に、加那芽兄様が帰ってきた。

そう。僕のもとに届いたメールは、この知らせだったのである。

もうすぐ帰るからね、っていう加那芽兄様からのお知らせメール。

帰ってきた加那芽兄様は、僕の姿を見て顔を綻ばせた。

「わざわざ起きて、待っててくれたのかい?」

「はい」

「こんな遅い時間まで…。もう寝てて良かったのに」

それは…確かに、ちょっと眠かったですけど。

「でも…加那芽兄様に、お帰りなさいって言いたくて…」

「…」

「だから…その、待ってたんです」

「…」

「…加那芽兄様?」

加那芽兄様は、無言で天を仰いでいた。

…大丈夫ですか?

「帰ってきて早々…。尊さの波動で吹き飛ばされそうだ…」

…何言ってるんですか。加那芽兄様。

「君の顔を見られて嬉しいよ。長旅の疲れが一瞬にして吹き飛んだ」

「そ、そうですか」

「私がいない間、元気にしてたかな?」

「はい、勿論です。…加那芽兄様は?お元気でしたか?」

「元気だよ。例え40度の熱が出てたって、小羽根の顔を見たら一瞬で治る」

40度の熱が出たなら寝てください。

僕を見てても治りません。

すると加那芽兄様は、スーツケースから手を離し、すっと両手を広げた。

「…何ですか?その手は」

「さぁ、私の胸に飛び込んで、お帰りのハグをさせておくれ」

目を輝かせないでください。

「ほら、小羽根。遠慮しなくて良いんだよ」

「…しませんよ。そんなこと」

「…!そんなこと…!?」

当たり前じゃないですか。そんな…小っ恥ずかしいこと。

「残念だよ…。小さい頃はしてくれたのになぁ」

「いつの話ですか、それは…」

「抱き締めて、ついでにお帰りのキスもしてくれたのに…」

「い、いつの話ですか、それは…」

もっともっと小さい頃の話でしょう。

今はもう…良い歳なんですから。お互い。

そういう過剰なスキンシップは控えてください。