今日の部室には、カーテンも閉められていないし、プロジェクターもない。

かと言って、テーブルの上に雑誌もない。

代わりに、先輩方の中央にあるのは…。

…一台の、ノートパソコン。

非常に不穏な気配を感じますね。

「…そのノートパソコンは何ですか」

「学校のパソコン室で借りてきた。部活で使うから貸してくださいって」

そうですか。今すぐ返してきてください。

絶対ろくでもないこと企んでるでしょう。そのパソコンで。

そうに違いない。

…かくなる上は。

「…済みません、僕、今日急用を思い出したので帰ります」

「ちょっと待て。それは嘘だろ絶対」

くるりと踵を返したところを、がっちりと掴まれた。

逃げられなかった。

「さぁこっちに来てくれ。始めるぞ」

「何を始めるって言うんですか。何なんですかそのパソコンは?何をする為に用意してるんですか」

「おっと。インストール終わりましたよ。いつでも始められます」

弦木先輩。インストールって何のことですか。

「ほら、始めるぞ」

無理矢理、天方部長にパソコンの前に連れてこられた。

酷い。連行ですよこれは。

恐る恐る、パソコンの画面を見ると。

そこには、非常におどろおどろしい黒い画面が。

「…何ですか?これ…」

「今日は趣向を変えて、パソコンでフリーホラーゲームだ」

ドヤァ。

…ふ、フリーホラーゲーム…?

「…佐乱先輩、知ってます?」

とりあえず、一番良識のある佐乱先輩に聞いてみることにする。

「俺もよく知らんけど…。パソコンで無料で出来るゲームらしいぞ」

「パソコンで…無料で…?」

そんなのあるんですか?

それ、本当に無料ですか?無料と謳ってインストールさせておいて、実は後から閲覧料100万円請求します、とか…。

しかし、先輩方はそんな心配、まったくしていないようで。

「よーし。始めるぞー。最初から、を選択…っと」

…始まっちゃった。

…まぁいっか。僕がインストールしたんじゃないし…。

「これ、めっちゃ怖いって評判なんだぜ。自分も初見なの。いやぁ楽しみだな〜」

うっきうきの天方部長。

ふーん…。ホラーゲーム、ですか…。

僕は勿論やったことないけど、どんなゲームなんでしょうね。
 
いずれにしても、大して恐れる必要はない。

何せ今の僕は、加那芽兄様の本の知識で武装してますから。

これはゲーム。あくまで架空の物語。空想の産物。

ましてや、これは無料でインストール出来るフリーゲーム。

無料故に、クオリティもそこそこだろう。

ノートパソコンの画面は、この間借りてきたスクリーンより小さいですしね。

これくらいなら、例え画面の中にどんな幽霊が出てきても、淡々と、余裕で受け流せる。





…と、思っていた時期が僕にもありました。