…しかし。

加那芽兄様から電話をもらえるのは、いつだって嬉しいけど…でも…。

「加那芽兄様…今、時間大丈夫なんですか?深夜なんじゃ…」

『いや、早朝だよ。午前二時半』

兄様。それは深夜なのでは?

やっぱり。

今、加那芽兄様がいるのは海外。時差も相当あるから、無闇に連絡をするのは控えていたのに…。

まさか加那芽兄様の方から電話をしてくるとは。

「一体どうしたんですか…?」

『それはこっちの台詞だよ、小羽根』

えっ?

『志寿子からメールが届いたんだ。…入学式早々、小羽根が制服を汚して帰ってきたと』

あっ…。

しまった。志寿子さんを口止めするのを失念していた。

加那芽兄様から、常々僕の身に何かあったら、すぐ報告するようにと仰せつかっている志寿子さんのこと。

異臭を放ちながら帰ってきた僕を心配して、早速加那芽兄様に報告したらしい。

こうなることは予想出来ていたのに。 

「え、えぇと…加那芽兄様…これは…」

『…何処の馬の骨だ?』

う、馬の骨?

加那芽兄様の声が、電話越しでもはっきり分かるくらいに低くなった。

ま、不味いかもしれない…。

『何処の誰なんだ?私の可愛い小羽根をいじめたのは…?』

「あの、兄様。それは誤解です。別に誰にもいじめられてな、」

『目にもの見せてくれる。私の可愛い小羽根を傷つけた報いを受けさせてやる。生まれてきたことを後悔するほどに』

加那芽兄様が、物凄く恐ろしいことを言ってる。

あなたが言うと本当冗談に聞こえないので、やめてください。

「本当に誤解なんです。加那芽兄様、僕の話を聞いてください」

『やはり海外出張なんて放り出して、無理にでも小羽根の入学式に参加するべきだった。小羽根に近寄る悪い虫を一匹残らず始末し、』

「恐ろしいことを言わないでください。そして僕の話を聞いてください」

何とか加那芽兄様を止めないと。

このままじゃ、天方先輩達が闇に葬られてしまう。

僕は必死に加那芽兄様を宥め、すかし、今日一日の間に起きたことを一つずつ、順を追って丁寧に説明することにした。