僕は一人でビビりまくっていたけど、久留衣先輩は。

「人魂だってー。ふわふわ〜」

何でそんな余裕そうな表情をしてるんですか。

ふわふわ、じゃないですよ。

「萌音ちゃん、余裕だな…。それじゃ、もう1段階レベルを上げてみるか…」

ちょっと。これより恐ろしい心霊写真があるんですか?

僕はもうお腹いっぱいなので、見せないでください。

「じゃ、これならどうだ?」

天方部長は、またしても雑誌の別のページを開いた。

「おぉー、これはこれは…」

「へぇ。こんなこともあるんだな…」

先輩方は、相変わらず余裕だったけど。

僕は、思わず息が止まりそうになった。

男性の写真である。

学ラン姿の男性が、中央に写っている。

一見、何もおかしなものは写っていないように見える。

確かに、おかしなものは写ってない。

オーブも、幽霊の顔も、幽霊の手も写ってない。

…そう、その写真は「写ってない」のだ。

…男性の、片脚が。

右脚は写ってるのに、左脚だけが消しゴムで消したように消えている。

当然あるべきものがそこにない、そんな不気味さがある。

僕は震えていたけれど、久留衣先輩はけろっとして。

「…?この写真は、何がおかしいの?」

なんて聞いてきた。

「どう見ても明らかだろ?ほら、この人片脚がない」

「…!足が不自由な人を差別しちゃ駄目なんだよ」

「いや…差別じゃなくてな…」

佐乱先輩は、至極真っ当なことを言う恋人に、なんと説明したら良いか困っていた。

…天然は無敵、ってこのことなんですね。

…それはそれとして、写真の話に戻ろう。

「この写真は…何でこんなことになってるんですか…?」

合成、及び加工、なんてオチじゃないですよね。

「そりゃ消してるんだろ?幽霊が」

当たり前のように言わないでください。

「もしかして…幽霊がこの人の脚を乗っ取ろうとしてるんじゃ…」

「いえ、大丈夫ですよ小羽根さん」

これの何が大丈夫なんですか?弦木先輩。

「一般的には、身体の一部が欠損している心霊写真は、その部位を怪我する恐れがあるので気をつけなさい、というご先祖様からの警告だそうです」

「え、そうなんですか…?」

ご先祖様からの警告…ってことは、この男性は呪われてるんじゃなく、ご先祖様に「気をつけなさい」とアドバイスされてるだけなのか。

…ちょっと安心した。

「そ、そうですか…。それは良かった…」

「へー、そんな意味があったんだ。唱君は物知りだな」

天方部長、あなた知らずに心霊写真を見てたんですか。

仮にも心霊研究部の部長を名乗るなら、心霊写真の意味くらい知っておいてくださいよ。

「それじゃ、こういう写真はどういう意味なの?」

と言って、天方部長はもう1ページ雑誌を捲った。

するとそこには、またしても、またしても非常に不気味な心霊写真が載っていた。