しかし、先輩達が見ている手前。

僕だけ「嫌です」とは言えなかった。

そうっと、恐る恐る、雑誌の写真に視線を落とす。

今度の写真には、男性が一人、写っていた。

アパートらしき部屋の一室で、カメラを見つめてピースサインしている。

恐らく、新居に引っ越してきたばかりなのだろう。

部屋の中は空っぽで、家具も何も置いていなかった。

引っ越し祝いの一枚…といったところだろうか。

相変わらず、両目にモザイクがかけられている。

一見したところでは、何もおかしなものは写っていない。普通の写真に見えるが…。

「どうだ?気づいたか、後輩君」

「いや…分かりませんけど…」

と言うか、分かりたくもありませんけど。

何なんですか。また窓の外に何か写ってるのか?

恐る恐る、窓の外を注視してみたけど…何も変なものは写ってない。

じゃあ床か?床に顔らしきものが…とか。

「ヒント、押入れ」

と、天方部長。

「押入れ」の一言で、身体がビクッとするようになってしまった。

あの映画の罪は重い。

「お…押入れ…?」

写真の中で、押入れを探す。

あった。

写真の中央でピースサインをしている男性の左に。押入れが。

そして同時に、何故この写真が心霊写真とされているのかを理解した。

「ひっ…」

思わず、怯えの声を上げてしまった。

押入れの入り口が、ほんの少し開いていて。

そこから、真っ白な人の手のようなものが、ベタッ、と伸びているではないか。

これは気持ち悪い。

「ふっ。気づいたようだな。そう、押入れの中に居るんだよ」

何で天方部長がドヤ顔なんですか?

「この写真が『オシイレノタタリ』の元ネタなんですかね」

「さぁ…。偶然じゃねぇの?」

先に気づいていた弦木先輩と佐乱先輩は、特に怖がる様子もなく、冷静に分析。

「押入れの中で、誰かがかくれんぼしてるのかな」

久留衣先輩はというと、相変わらずこの写真を心霊写真だと認識していない。

そんなかくれんぼは遠慮してください。

「や、やめましょうよ…こんな気持ち悪い写真を見るの…」

僕もう、一生写真撮れない。

背後と押入れが気になって。

「何で?面白いじゃん」

「面白くないですよ…」

心霊写真が面白いなんて、どんな趣味してるんですか。

すると、佐乱先輩が。

「まぁ、でも嘘臭くはあるよな、この写真」

と、言った。

…え?嘘臭い?