僕は、加那芽兄様に今日あったことを…。

それと、昨日と一昨日のことも話した。

いつの間にか部活の名称が変わっていて、おまけに恐ろしいホラー映画を観させられて。

あまりの怖さに、思わず泣いてしまったんだ…と。

それらを話し終えると、加那芽兄様は打って変わって楽しそうに、くすくすと笑っていた。

「…笑い事じゃないんですよ…」

何で笑うんですか。他人の不幸を。

悪趣味ですよ、加那芽兄様。

『ごめんごめん、分かってるよ』

本当に分かってるんですか?

『小羽根、変わってないなぁと思って。そういえば昔も、怪談を読んでは泣きながら縋りついてきたよね』
 
うっ…。やっぱり覚えてるんですね。

「もう…忘れてくださいよ、そんなことは…」

『まさか。小羽根との思い出は、どんな些細なことでも忘れないよ』

そうですか。それは残念です。

『ホラー映画か…。私は観たことがないけど、そんなに怖い映画だったんだね』

「そうですよ…」

だからその…画面越しでも良いから、加那芽兄様の顔が見たくて。

そうしなきゃ眠れないだろうと思ったから…。

『成程。私も暇潰しに見てみるとしよう』

「あれは…そんな軽い気持ちで観て良いものじゃありませんよ…」

『ふふふ。小羽根は怖がりだからね』

笑わないでくださいってば。

でも、自分が怖がりのビビリなのは事実だから、言い返せない。

うぅ。情けない。

『大丈夫だよ、小羽根。怪奇現象なんて非科学的だ。ホラー映画ならなおのこと、ただの作り話だから』

それ、先輩方にも言われました。

その、ただの作り話が怖かったんですよ…。

『怖いなら、小羽根が眠るまで通話を繋いでおこうか?』

「ありがとうございます…。でも、大丈夫です」

加那芽兄様も忙しいんだし、僕が寝落ちするまで付き合ってもらうのは忍びない。

ほんの少し顔を見て話が出来ただけで、充分。

「加那芽兄様の顔を見て、ちょっと落ち着きましたから…」

『…可愛いことを言ってくれるね、君は』

今夜は、何とか眠れそうな気がします。

…多分。押入れさえ見なければ。

「お話してくれてありがとうございました。…お休みなさい、加那芽兄様」

『勿論、寂しくなったらいつでも連絡してきて良いんだよ。私も小羽根の可愛い顔を観られて嬉しかった。…おやすみ、良い夢を見るんだよ』

ありがとうございます。

…夢の中に、押入れのバケモノ、出てこなければ良いんですが。