その日の夜。

僕は迷惑を承知で、海外にいる加那芽兄様に連絡を入れた。

今からビデオ通話でお話出来ませんか、って。

こちらは夜だけど、向こうは朝の早い時間である。

もし迷惑だったら、諦めるつもりだったけど…。

『やぁ、小羽根。聞こえてるかな?』

「あ、加那芽兄様…」

パソコンの画面に、加那芽兄様の顔が映った。

画面越しだけど、顔を見るとホッとした。

「済みません、朝の忙しい時に…」

『気にすることはないんだよ。小羽根とお喋り出来るなら、三徹した翌日でも喜んで通話するよ』

三徹した翌日はさすがに寝てください。

え?今日は違いますよね?

『それで、どうかしたの?わざわざ小羽根から連絡してくるなんて、珍しいね』

「あ…はい…」

いつもは、加那芽兄様の迷惑になってはいけないからと。

こうしたビデオ通話は勿論、メールや電話も控えるようにしている。

でも…今日は特別である。

「実は…その…」

『…!小羽根、ちょっとよく顔を見せて』

え?

突然、穏やかな顔をしていたはずの加那芽兄様が豹変した。

か、顔?

『カメラに近づいて。もう少し』

「え、な、何でですか?」

『良いから、早く』

は、はぁ。

よく分からないけど…加那芽兄様に言われた通り、カメラに顔を近づける。

すると。

『…!やっぱり…!小羽根の目が、いつもの4割増しで充血してる』

は?

『それは泣いた跡だね。小羽根、私がいない間に誰かに泣かされたんだね?』

え、ちょ…そんな前のめりになって。

いきなりどうしたんですか、加那芽兄様。

『何処の不届き者だ。私の小羽根を泣かせるとは…!…知り合いのマフィアに頼んで、生爪を全部剥いでやろう』

恐ろしいことを言わないでください。

「ち、違いますよ。これは、その…」

『良いんだよ小羽根。何も言わなくて良い…。君の仇は必ず私が取る』

何を言ってるんですか、あなたは。

「ちゃんと聞いてください。その話をしようと思ってたんです」

『勿論だ。何でも聞くよ。で、誰に刺客を差し向ければ良い?』

「…」

とりあえず加那芽兄様は、ちょっと落ち着いてもらって良いですか?