すると天方部長は、にやり、と人の悪い笑みを浮かべた。

え、何ですかその胡散臭い顔…。

「その辺の事情はな、この次…『オシイレノタタリ2』で明らかになるんだよ」

えっ。 

「成程、続編があるんですね」

「その通り。続編はヤバいぞ。無印より更に怖いからな」

これより怖いって、それもう異次元レベルじゃないですか。

ガクブル。

「ちなみに、続編の続編、『オシイレノタタリ3』ってのもあるぞ」

どれだけ続いてるんですか、そのシリーズ。

押入れの祟りが終わりません。

「まほろ君は、2と3のDVDも持ってるの?」

「うん、勿論。何なら他のホラー映画のDVDも色々持ってるぞ」

「わー、すごーい」

ぱちぱち、と手を叩く久留衣先輩。

拍手してる場合じゃないですよ。

更なる恐怖が僕を襲う。

何で皆怖がってないんですか?

押入れから出てくるアレを見たのに、何でそんな平然として…。

「…あれ?小羽根さん。全然ポップコーン食べてないじゃないですか」

ぎくっ。

弦木先輩が、恐怖に固まっている僕に気づいた。

…ポップコーンなんて、とてもじゃないけど食べてる余裕なかったよ。

袋を開けてさえいない。

「何で?小羽根君、ポップコーン嫌いなの?」

「えっ…いや…そ…そんなことは…ない、ですけど…」

「サイダーも、一口しか飲んでないし」

…豆乳味ですからね、それ。

まぁ、普通のサイダーだったとしても、全然飲めなかったと思いますけど。

とてもじゃないけど、飲食する余裕はなかった。

「どうかしたんですか?何だか顔色も悪いですし…」

「そ、それは…だ、大丈夫です…」

皆余裕の表情なのに、一人だけ「怖くて震えてました」とも言えず。

必死に強がる。

あぁ…こういう時、素直になれない自分が悔しい。

だって、みっともないじゃないですか。

高校生にもなって、たかが映画で泣かされるなんて。

これはフィクション。これはフィクション。作り話だから怖くない。

必死に自分にそう言い聞かせる。

すると佐乱先輩が、何を誤解したのか、

「もしかして、映画がつまんなくて途中から寝てた、とか?」

と、尋ねてきた。

え?

「分かるよ。俺も一応最後まで観たけど、途中から眠くなってきたし」

眼の前でバケモノが飛び出してきてるのに、どうやったらそれを見て眠くなるんですか?佐乱先輩。

「そっかー。後輩君、妙にリアリストだもんな…。刺激が足りなかったか。そりゃ済まんな」

「い、いえ、あの…天方部長…それは…」

「でも安心してくれ。大丈夫だ」

…何がですか?

全然安心出来ない予感。

「明日観る続編の『オシイレノタタリ2』は、もっと怖いから。今度はきっと、後輩君も楽しんでもらえると思うぞ!」

…。

僕は、心の中で小さく呟いた。

助けてください、加那芽兄様。