上映開始から約二時間後。

ようやく、長かった映画が終わった。

しかしその時には、僕はすっかり怯え、震える子羊のようになっていた。

今ここに加那芽兄様がいたら、間違いなく飛びついていたと思う。

恥も外聞もない。

怖いものは怖い。

ま、まさか…押入れから、あんなものが出てくるなんて…。

妙に馬鹿馬鹿しいタイトルからは、想像も出来ない恐怖がそこにある。

途中、何度も席を立って、部室から逃げ出したい衝動に駆られた。

しかし、それさえ出来ないほどに恐怖で身体が固まってしまって。

それに、途中で逃げ出したりしたら、臆病者のビビりだと思われるじゃないですか。

それも嫌だからと思って、何とか映画が終わるまで、必死に心を無にして耐えたけど。

…やっぱり逃げた方が良かった。

多分、この先5年は消えないトラウマを抱えるはめになった。

僕、もう押入れ開けられないよ。

「ふー、終わった終わったー」

ようやく、天方部長が部室の電気をつけてくれた。

そう、これのせいですよ。余計に恐怖を煽り立てられたのは。

わざわざ電気を消して上映するから。

雰囲気を出す為だったんだろうけど、お陰で僕の恐怖が五割増し。

おまけに、カーテンまで全部閉めるという徹底ぶり。

ぶるぶる。

「やっぱり『オシイレノタタリ』は名作だなー。何度見ても面白いや」

などと宣う天方部長。

嘘でしょ。何回も観てるんですか?これ。

こんな映画を何度も観たがるなんて、おまけにこれが「面白い」なんて。

天方部長は変態だ。

しかも。

「李優、押入れからバーンって。おばけがバーンって。夢の世界みたいだねー」

「はいはい、そうだな」

この中で唯一の女性である久留衣先輩は、押し入れから出てくるバケモノに大興奮。

宥める佐乱先輩も、特に怖がっている様子はない。

二人共、何で平然としてるんですか?怖くないんですか?

変態しかいない。この部室。

そ、そうだ。弦木先輩は…?

ちらり、と弦木先輩の様子を伺うと。

「ふーん。意外とそうでもなかったですね」

とか言って、余裕の表情でポップコーンを摘んでいた。

嘘でしょう。強がってるだけなんじゃないんですか?

「そうか?充分怖かったと思うけど」

「怖いだけで、バックボーンがはっきりしてなかったじゃないですか。結局あのバケモノは、何で押入れに潜んでたんですか?その辺の背景がはっきりしないと、恐怖も薄れるというものですが」

物凄く冷静に、この映画を分析している。

全然強がってるようには見えない。

バケモノが押入れに潜むのに、バックボーンなんてありませんよ。