「小羽根君、どのジュースが良い?」

久留衣先輩が、ジュースのペットボトルを机に並べていた。

「えっと…どんなジュース買ってきたんですか?」

薄暗くてよく見えないんです。

「んっとねー、皆好みが色々あると思ったから、全部違う種類の買ってきたの」

「そうですか…。その方が良いですね」

「抹茶サイダーと豆乳サイダーとコーヒーサイダーと、ココアサイダーとパクチーサイダーのどれが良い?」

「…何で普通の飲み物が一つもないんですか…?」

遊んだんですか。遊んだんですか?そのラインナップ。

普通の紅茶とかお茶はないんですか。

とりあえず、パクチーサイダーじゃなきゃもう何でも良いです。

「…ごめんな、こいつ…。決して悪気はないんだ」

首を傾げている久留衣先輩に代わって、佐乱先輩が謝ってきた。

いや、別に佐乱先輩が悪い訳じゃありませんから。

「じゃあ、豆乳サイダーあげるね」

じゃあ、ってどういう意味ですか。、

「ど、どうも…。ありがとうございます…?」

「どういたしましてー」

…美味しいの?これ。

よくよくペットボトルのラベルを見たら、本当に『サイダー豆乳味』って書いてある。

とても美味しそうには見えないけど…。買ってきてくれた手前、要りませんとも言えないし。

…まぁ、パクチーサイダーよりはマシだと思おう。

僕、あんまり炭酸飲料得意じゃないんだけどな…。 

試しにペットボトルを開けて、ほんのちょこっとだけ、口に含む。

意外なことに、豆乳とサイダーの絶妙なハーモニーが…!…なんてことはなく。

しゅわしゅわしたサイダーの中に、まろやかな豆乳の味。

うん。合わない。

気になった人は、サイダーと豆乳を混ぜて、試しに自分で飲んでみて。

「はい、李優にもココアサイダーあげるね」

「はいはい、どうも…」

こちらも変な味のサイダーをもらっている佐乱先輩だが。

変な味でも、可愛い恋人が買ってきてくれたもの。

遠い目をして、ココアサイダーを受け取っていた。

…苦労してるんだなぁ。

「よしっ、じゃあ準備出来たな!観ようぜー」

そこに、何やらDVDのパッケージを手にした天方部長。

「観るって…何を観るんですか?」

スクリーンとプロジェクターをわざわざ借りてきたってことは、多分何らかのビデオを観るんだろうとは思ってた。

芸術研究部が観るべきビデオ…。

何だろう。有名な画家の一生を描いた映画とか?

それともちょっと趣向を変えて、演劇やミュージカルのビデオとか?

そういうのも良いですよね。

昔、加那芽兄様に連れられて、一緒にミュージカルを観に行ったことがある。

あれは本当に素晴らしい作品だっ、

「そりゃ、これだよ」

と言って、天方部長が見せてくれたDVDのパッケージを見て。

僕は、思わず悲鳴をあげそうになった。