その後、僕は調理実習室を出て、部活動説明会の行われている講堂に行ってみたのだが。

丁度、説明会が終わったところだったらしく。

配布物を抱え、「どの部活にしようかなー」「俺はもう決めたよ」などと言いながら、説明会に参加した新入生達が、講堂から出てきた。

あぁ…遅かった。やっぱり間に合わなかった…。

僕がパイナップルピザの掃除をしている間に…。

終わってしまったものは仕方ない。僕は、半泣きでくるりと踵を返した。

そのまま、全部夢だったら良いのになぁと思いながら帰宅した。





無悪の屋敷に帰ると、志寿子さんが迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、小羽根坊ちゃま」

「た…ただいま…」

何だか、物凄く長い一日だった気がするよ。

特に放課後。

「どうでしたか?入学式は。御学友と、上手くやって行け…」

「…?志寿子さん?」

こちらに近寄ってきた志寿子さんが、突然、ピタリと制止した。

「…小羽根坊ちゃま、今日は一体何をされたんですか?」

えっ?

「何だか…。物凄く変な匂いがするんですが…」

「あっ…」

…ごめんなさい。それ、間違いなく、あのゲテモノパイナップルピザの匂いです。

自分では気付かなかったけど、あの異様な匂いが、制服に染み付いていたらしい。

真新しい制服だったのに、こんな酷い有り様に…。

「す…済みません。ちょっと、その…い、色々ありまして…」

「…色々…?…それに、小羽根坊ちゃま…。何だかお疲れのようですよ。顔色があまり…」

それもパイナップルピザのせいです。

入学早々、調理実習室のオーブンの大掃除なんかさせられたら、誰だって疲れた顔になる。

「も、もしかして…。御学友にいじめられたとか…」

「ち、違います!そんなんじゃなくて…」

ほら。志寿子さんが、変な誤解をしてしまってる。

入学早々、僕がクラスメイトにいじめらたんじゃないかって心配している。

「ほ、本当に違うんですよ。これは、その…。な、何でもないんです」

「…」

「せ、制服は自分で洗いますから、大丈夫です!本当に何にもないので!」

「あっ…小羽根坊ちゃま…」

僕は急いで話を終わらせて、そそくさと志寿子さんから逃げた。

ともかく、この異臭の染み付いた制服を、大至急何とかしなくては。