これは…ちょっと、いやかなり予想外だった。

確かに…この手の本は、あまりにも悲惨で、あまりにも理不尽で…。

読んでいて、悲壮な気分にさせられる。

人間にはこんな恐ろしい負の力があるのかと、人間の醜さを痛感する。

特に、小羽根が読んでたこの本。

作者は戦争中、家族が亡くなったり、友人や恋人と生き別れたり…とても悲しい内容が綴られていた。

何とか作者自身は生き残ったが、晩年まで戦争中の記憶に苦しめられている。というあらすじだったはず。

「同じ人間なのに…。こんな酷い…苦しい目に遭って…」

「…」

「それで…悲しくなって…」

…泣いちゃってた、ってこと?

成程、そうか…。それは困ったね。

特にこの本、結構生々しいと言うか…残酷な描写も、はっきり書いてあるんだよね。

鞭で死ぬまで打たれて殺された、とか…。毒薬で殺された、とか…。

まだ子供である小羽根には、刺激が強過ぎたようだ。

書斎にある戦争関連の本、全部調べ直して。

小羽根を悲しませそうな描写がある本は、全部金庫に入れて封印しておかないといけないな。

「そうか…。それは悲しかったね、小羽根…」

「…はい…」

困ったな。

フィクション小説で泣いてるんだったら、「あれは作り話だからね」と言って励ませるのに。

この本は実際の体験を書いてるノンフィクションだから、「作り話だからね」戦法は通用しない。

それでも私は、小羽根を何とか慰めなければならない。

小羽根の笑顔を取り戻す為に。

「同じ人間同士なのに…。どうしてこんな酷いこと…」

などと、ぽろぽろ泣きながらこんなことを言うので。

小羽根が全ての国家の代表になったら、あっという間にこの世から争いはなくなるだろうね。

「そうだね…。確かに、こういうことがあったのは、悲しい歴史だけど」

と言って、私は小羽根を膝の上に抱き上げ。

両目の涙を、指で拭ってやった。

「それを繰り返さないことが大切なんだよ。今の小羽根みたいに、誰もが優しい心を忘れなければ…きっと平和な世界になるだろうね」

「…本当に?そう思いますか?」

「あぁ、思うよ」

よしよし、と頭を撫でてあげると。

小羽根は、ようやく泣くのをやめてくれた。

内心ガッツポーズ…してるけど、今ガッツポーズなんかしたら小羽根がびっくりして、また泣き出しかねないので、我慢。

「さぁ、もう泣かないで。この世には悲しい話も多いけど、楽しいことやわくわくすることもたくさんあるんだよ」

「加那芽兄様は…そんなことを知ってるんですか?」

「勿論だよ。じゃあ、今度は楽しい話をしてあげようね」

優しくそう言うと、小羽根はぱぁっと顔を明るくさせた。

内心ガッツポーズ、二回目。