海外出張の暇潰しがてらに、小羽根の可愛いエピソードをもう一つ。

小羽根は昔から本が好きで、自主的に図書館に通ったり、私の書斎から本を借りて、よく読んでいる。

私もそれなりに読書をする習慣はあるが、私が読むのは大抵、実用書ばかりである。

しかし小羽根は、小説でもノンフィクションでも歴史小説でも、自分の興味のある本は何でも読んでいる。

読みたい本のジャンルに好き嫌いがないのは良いことだ。

様々な分野の知識を身につけられるからね。

やっぱり小羽根は賢い。

しかし、同時に小羽根は、感受性が豊かな子だった。

人の痛みに敏感と言うか。

特に幼い頃は、その傾向が顕著だった。

それ故に、本を読んで悲しい思いをすることも多々あったようで…。







…小羽根が無悪の屋敷にやって来て、半年くらい経った頃だったろうか。

この頃は小羽根とも随分仲良くなって、私に対して心を開いてくれるようになった。

私を見て、びくっとして怯えるのではなく。

むしろ、私を見ると顔を輝かせて、嬉しそうに「加那芽兄様」と駆け寄ってくれるようになったのだ。

こんなに嬉しいことがあるだろうか。

もう一回言う。こんなに嬉しいことがあるだろうか。

自宅に帰った時、可愛い小羽根に出迎えられた時は。

一日の疲れが、一瞬にして吹き飛ぶのである。

つまり何が言いたいのかと言うと、小羽根が可愛い。

これだけである。

その日私は、小羽根にお土産を買って帰った。

小羽根が、私の書斎にあった某画家の画集を、興味深そうに眺めていたことがあって。

それならばと、同じく画家の別の画集を、馴染みの古書店に頼んで取り寄せてもらったのだ。

きっと喜んでくれるだろう。

小羽根の喜ぶ顔を思い浮かべて、思わず吐血してしまいそうになりながら、意気揚々と帰宅。

早速、小羽根がいるであろう子供部屋に直行。

「ただいま、小羽根。今日はお土産を、」

「…ふぇ」

あろうことか。

小羽根は喜ぶどころか、両目にいっぱいの涙を浮かべていた。