「な、何か駄目でしたか?加那芽兄様…」

「うっ…」

琴線に…琴線にダイレクトアタック。

これは効く。非常に効く。

「…小羽根。もう一回」

「??…加那芽兄様?」

「…ふぅー…はぁー…」

尊さの波動で吹き飛びそう。というのはこういう時のことを言うんだなって。

これまで私は、「推し」が尊いなどと言っている人を見ても、全く共感していなかった。

彼らは所詮、「推し」が好きなのではなく、「推し」を推している自分が好きなだけだろうと。

しかし、それはこれまで一度として「推し」を得たことのない、愚かな私の勘違いだった。

…可愛いものは可愛い。それがよく分かった。

「…小羽根、もう一回」

「か…加那芽兄様…?」

「ふぅー…」

尊くて辛い。あまりにも辛い。

「その調子で。もう一回お願い」

「えぇ…。あ、あと何回言えば良いんですか…?」

「そうだな…。…あと二千回くらい?」

「…そんなに言えません…」

そっか。ごめん。






あれから十年近くが経ち、私の小羽根に対する愛情は全く変わってない、どころか増していくばかりだが。

この時のことは小羽根も覚えていて、未だにからかわれるけど。

私にとっては、忘れられない大切な思い出である。