餌を啄むハムスターを眺めるような、ほっこりとした気分で。

しばし、小羽根を眺めていると。

「…はっ」

ん?

小羽根が、クッキーを食べる手を止めた。

「ご、ごめんなさい…。あの…勝手にたくさん食べて…」

「え?いや良いんだよ。私は食べるつもりなかったから」

何なら全部食べても構わない。

「でも…あの…加那芽様も…どうぞ」

「…」

…加那芽様…か。

あの当時、小羽根は私のことをそう呼んでいた。

非常によそよそしい、他人行儀な呼び方である。

…気に入らないなぁ…。

「クッキーは別に良いんだけどね…小羽根」

「は、はい?」

「その他人行儀な呼び方、変えてくれないかな」

「えっ…」

まるで兄弟とは思えない。

使用人が私を呼ぶ時の呼び方。

「え…あの…」

「何でも良いよ。もっとフランクに…。兄さん、とか」

「そ、そんな…」

恐れ多くて出来ない、とばかりに戸惑う小羽根。

…もしかして、腹違いの兄を「兄さん」と呼ぶのは抵抗があるだろうか?

「何なら、名前で呼んでくれても良いよ」

そう。気楽な友達感覚で。

そういうのも良いかもしれない。

友達みたいな距離感の兄弟って、良いよね。

「と、とてもじゃないですけど…そんな…」

「…嫌なの?」

「い、嫌って訳じゃない…ですけど…」

…けど?

「でも…あの…もし、そう呼んでも良いなら…。えっと…か、加那芽…兄様って、呼んでも良いですか?」

あざとい上目遣いで、おどおどしながら尋ねる小羽根。

…加那芽…兄様…か。

それもやっぱり他人行儀っぽいなぁ、とは思ったけど。

まぁ呼び名に「兄」がついてるなら良いか。

「勿論。良いよ」

「ほ、本当ですか…。それじゃ…その…加那芽兄様」

恥ずかしそうに、囁くような声で。

それでも、確かに小羽根は私を「兄」と呼んだ。

その瞬間、私の中で何かが開花した。

…ような気がした。

「…ごめん、もう一回言ってくれないかな」

「え?」

「もう一回。今の」

他意はないんだよ。そう、他意は。

ただちょっと、もう一回加那芽兄様って呼んで欲しいだけ。

「えぇと…。…加那芽兄様?」

「うぐっ…」

私は、思わず胸を押さえた。

これは…。…これは…ヤバいぞ。