「さっき…さっきのは、口の中が…ピリッてして…」

「…ピリ…?」
 
「変な味がして…その…びっくり、したんです。…ごめんなさい」

だから、謝る必要はないんだって。

それにしても、口の中がピリッとするチョコレートって、どういう意味?

私は試しに、チョコレートを一粒摘んで食べてみた。

何か変なものでも入ってるのだろうか、と思って。

しかし、自分で食べてみて分かった。

一口噛んだ途端に、ふわっと濃いブランデーの香りが広がった。

あぁ、成程。そういうことか。

「これ…洋酒チョコレートだったんだね」

「よ…う、しゅ?」

「お酒が入ったチョコレート、ってことだよ」

「…!」 

小羽根、びっくり。 
 
洋酒チョコレートって、結構好き嫌いを選ぶ味だよね。

私は好きだけど、小羽根みたいな小さい子には、口に合わないかも。

しかし小羽根は、愕然としていた。

「…小羽根?」

「お酒…お酒、食べちゃった…。僕、子供なのに…」

「…大丈夫だよ小羽根。子供が洋酒チョコを食べても、法律違反にはならないからね」

小羽根、君は真面目な良い子だね。

何も知らずに、私に食べさせられただけなんだから。

君は何も悪くないんだよ。

知らなかったとはいえ、癖の強い洋酒チョコを食べさせてしまい、大変申し訳なかった。

「…ふむ」

試しに別のチョコレートも摘んでみたけれど、こちらにはアルコールは入っていなかった。

しかし、カカオの味と香りが強く、かなりビターな味わいだった。

これはこれで悪くない…と、私は思うけど。

それは、私がある程度大人の舌になっているからであって。 
 
まだ幼い小羽根の口には、さぞや奇妙な味に感じたのだろう。

…ん?待てよ。もしかして。

それじゃ、チョコレートだけじゃなくて…紅茶も?

最初に飲んだ時、「ふぇっ」って言ってたよね?

「小羽根…。もしかして、紅茶も美味しくなかった?」

「えっ…い、いえ、そ、そんなことは…」

とは言っているものの、目が泳いでいる。

「素直に言って良いんだよ。怒らないから」

紅茶が口に合わなくたって、それは好みの問題なんだから、小羽根を叱ったりなんかしないよ。

「あの…実は…。ちょっと、苦いなって…思ってました」

「…やっぱりそうか…」

「…ごめんなさい…」

「…謝らなくて良いんだよ」

君、何も悪くないから。

こればっかりは私が悪い。全面的に私が悪い。

もっと早く気づけば良かった。…小羽根を泣かせてしまう前に。