「どう?美味しい?」

「えっ…あっ…えっと…」

戸惑う小羽根。

愚かな私は、この時の小羽根の戸惑いの意味が分かっていなかった。

「は、はい…。美味しい、です…」

と、小羽根は健気にもそう言った。

「それは良かった。さぁ、もっと食べて」

美味しいと言ってもらえたことに、気を良くした私は。

小羽根に、どんどんチョコレートを勧めた。

小羽根は困ったような顔で、

「は、はい…」

と言って、戸惑い戸惑い、チョコを口にした。

こんなことで、小羽根との仲良し度が上がってるような気がして、私は大満足だった。

「ほら、遠慮しなくて良いんだよ」

「でも…その、僕だけもらう訳には…」

「うん?」

「その…あなたが、もらったものだから…」

そんなこと気にしてたのか。

確かに私の学友にもらったものだけど、私自身は特に、チョコレートが好きという訳でもない。

好きでも嫌いもない、くらい。

むしろ、このチョコで小羽根と仲良くなれるなら。

「良いんだよ、気にしなくて。小羽根が全部食べて」

「…えっ…」

「さぁ、遠慮しないで」

「…」

誓って言うけど、私はこの時、善意100%で小羽根にチョコを勧めていた。

喜んでいるに違いないと、そう思い込んでいたのである。

私に勧められ、小羽根は手をぷるぷるさせながら、震える小さな手でチョコを手に取った。

「小羽根は、甘いものが好きなのかな?」

「えっ…。は、はい…」

「そうなんだ。それじゃ、今度から珍しいお菓子や美味しいお菓子をもらったら、小羽根にあげようかな」

今回のように、クラスメイトや知り合いから、手土産としてケーキやチョコやクッキーや、和菓子なんかももらうことが多い。

その度に、自分では一口二口食べて、あとは屋敷の使用人にあげたりしていたけど。

今度から、小羽根にあげよう。

餌付けで簡単に好意を稼ごうとしているようで、我ながら浅はかな考えだったが。

この時の私は、全然そのことに気づいていなかった。

…気づいたのは、その直後だった。

小羽根の手が止まっていた。

「あ、小羽根。紅茶のおかわり、いる?」

「え」

「さぁ、遠慮しないで」

私は、三分の一くらい減った小羽根のティーカップに、紅茶のおかわりを注いだ。

「全部食べても良いんだからね。ほら」 

「だ、だけど…僕…」
 
「良いから、良いから」

本当はもっと食べたいけど、遠慮してるんだろう。

そう思って、純粋な善意から小羽根にチョコを勧めた。

戸惑う小羽根は、震える手でもう一つチョコを摘んで、口に入れたが。

「…ふぇ」

…ふぇ?

ついに堪えきれなくなった小羽根の両目に、ぶわっ、と涙が浮かんだ。