一人で大人しく遊んでいたんだろうに。

私が来てしまったせいで、小羽根はすっかり怯えてしまっていた。

…何だか、悪いことをしてしまったな。

だけど、私は小羽根と仲良くなりたい。

故に、そう簡単には諦めない。

私は努めて明るい口調で、小羽根に言った。

「小羽根。一緒にチョコレートを食べないかい?」

「ほぇっ…?」

「海外留学に行った友人に、お土産をもらってね。小羽根と一緒に食べようと思って」

…どうかな?

チョコレートくらいでは、釣られてくれないだろうか。

当時、私はまだ、小羽根との距離を測りかねていた。

仲良くなりたいのは山々なのだが、この歳の子供とどうやって親睦を深めれば良いのか、分かっていなかったのである。

そこで、手っ取り早く玩具やお菓子で釣ろう、などと考えた訳だ。

我ながら浅はかな考えである。

小羽根は困ったような顔で、しばらく視線を彷徨わせていたが。

「…どうかな?小羽根…」

「…ん」

小さな声で、小羽根はこくり、と頷いた。

思わずガッツポーズ。

…を、したかったが、小羽根が怖がるといけないので、必死に我慢。

「良かった。それじゃ、紅茶を用意しよう」

甘いもののお供には紅茶。あるいはコーヒー。

そう思い込んでいた私は、この時点でミスを犯していることに気づいていなかった。

戸惑う小羽根をよそに、淹れたての濃い紅茶を用意。

「さぁ、飲んでみて」

ティーポットに入った熱々の紅茶を、ティーカップに注ぎ入れる。

立ち上る芳醇な香り。

「私のお気に入りのアッサムティーなんだよ。ストレートで飲むかい?それともミルクを入れる?」

「え、えっと…だ、大丈夫です…」

「そう?」

私自身は、砂糖やミルクを入れず、そのままストレートで飲むのが好きである。

私が先にティーカップに口をつけると。

小羽根は恐る恐る、同じようにティーカップを手に取り。

そうっと、紅茶を啜った。

「…ふぇっ…」

途端、目を白黒させていた。

…ん?ふぇ?

「…?大丈夫?」

「へっ…へ、へ…平気、です…」

「そう?…それなら良いけど…」

思ったより熱かったんだろうか?

…まぁ、それはともかくとして。

紅茶はさておき、チョコレートを食べてもらおう。

「さぁ、小羽根。チョコレート、食べてご覧」

「は、はい…」

長方形の黒い箱の中に、一粒大のチョコレートがいくつも入っている。

「どうぞ。どれでも好きなのを」

「え、えっと…じゃあ、これ…」

小羽根は、一番隅っこのチョコレートを一粒、手に取った。

そのチョコを恐る恐る、もぐ、と口に入れる。

「…ふぇっ…」

…ふぇ?