あれは確か、小羽根を引き取って二、三週間ほど経った頃だろうか。

海外留学に行った学友から、外国土産の高級チョコレートをもらった私は。

それを小羽根と一緒に食べようと思って、小羽根を呼びに行った。

「小羽根、いるかい?」

私は、屋敷の中にある子供部屋に、小羽根を訪ねていった。

この子供部屋は、私が指示して用意させた部屋である。

この屋敷には、小羽根が遊べる部屋も、玩具も何一つ用意されていなかったから。

子供には、子供らしく遊べる場所と道具が必要なのである。

そこで、小羽根が広い屋敷の中で退屈しないように、子供部屋を用意させた。

部屋の中には、小羽根が一人で遊んでいた。

私が部屋に入ると、小羽根はびくっとして、遊ぶ手を止めた。

おっと。…驚かせてしまっただろうか。

「ごめんね、小羽根。一人で遊んでたのかい?」

「あ…あぅ…」

私に話しかけられた小さな小羽根は、困ったように視線をきょろきょろさせ。

それから、俯いて、蚊の鳴くような声で謝った。

「ご、ごめんなさい…」

「…謝ることはないんだよ」

この頃、この「ごめんなさい」という言葉は、小羽根の口癖のようなものだった。

小羽根がどれほど怯えた子供だったが、これだけでも分かるというものである。

小羽根の手元には、絵本があった。

普通の絵本じゃなくて、ボタンを押したら様々な童謡が鳴り出す、知育絵本であった。

へぇ。小羽根はあれが好きなんだろうか。

小羽根がどんな玩具を好きか分からないから、この部屋にはたくさんの種類の玩具を用意しておいた。

積み木やパズルや、室内用の滑り台やトランポリン。

これは女の子向けかなと思いつつ、おままごとセットにお絵かきセット。

男の子ならこういうものの方が良いだろうかと、ミニカーやヒーローグッズなんかも用意してみた。

でも、小羽根が選んだのは、音の出る絵本。

成程。この子は賢い。

「小羽根は絵本が好きなのかな?」

「…えっ…」

「欲しい玩具があったら、何でも言って良いからね」

「…」

私が話しかけても、小羽根は返事に困ったように俯いていた。

…うーん。まだ駄目か。

この頃の小羽根にとって、欲しい玩具をねだる、なんて行為は。

海外旅行に連れて行って、とねだるくらいハードルの高いことだったのである。

もっと気楽に頼んでくれて良いんだけどね。

何なら海外旅行をねだられても良い。連れて行くよ。何処にでも。