加那芽兄様に、やる気が出てくれたのは良いことだけど…。

「…小羽根、私がいなくて大丈夫?」

「はい?」

加那芽兄様は不安そうに、僕の顔を覗き込んだ。

な、何ですかいきなり…。

「寂しくないかい?一人で…」

「へ…平気ですよ。何言ってるんですか」

「だって、小羽根…。私が長期の出張に出掛ける時は、いつも泣いてただろう?」

「そっ…」

そんなことありません…と言いたいところだったけど。

…残念ながら覚えがあるので、あながち加那芽兄様の誇張ではない。

で、でも…。

「い、いつの話ですか…。僕が随分小さい時の話でしょう?」

「そうだったかい?私は昨日のことのように覚えてるけど」

ここ最近は…普通に、笑顔で送り出してるじゃないですか。

僕が泣き虫みたいに言うのやめてくださいよ。

「出張に行く前の晩は、寂しいからってよく私の寝室にやって来て、一緒のベッドで寝て欲しいってせがんできたり…」

「そっ…!れは、な…ないとは言いませんけど…そ、それも小さい時の話でしょうっ?」

今も現在進行系みたいに言わないでください。

「そうだったかな?私は昨日のことのように覚えてるけどね」

「何年も前の話です。濡れ衣はやめてください」

「今夜も来てくれて良いんだよ?」

「…行きません」

もう小さい子供じゃないんですよ。

僕、今何歳だと思ってるんですか。

「そうか…。大きくなったね小羽根…。嬉しいけど、ちょっと寂しいな…」

「…しみじみ呟かないでくださいよ…」

「良いかい、私がいない間に誰にいじめられたら、すぐに言うんだよ。小羽根に手を出さんとする愚か者は、一族郎党まとめて闇に葬り去ってあげるからね」

「加那芽兄様が言うと洒落にならないので、やめてください」

本当にやりかねないんですよ、この人は。

加那芽兄様の中で、今僕何歳なんですか。

多分、最初に会った5歳くらいの時で止まってるでしょう。