「…それ、そんなに悲しいことですか?」

「悲しいよ…!悲しいに決まってるじゃないか。だって、二週間も小羽根に会えないんだよ…!?」

「…」

…そんな、この世の終わりみたいな顔で言うことですか?

今生の別れでもあるまいに…。たった二週間で…。

大体、加那芽兄様…。

「海外出張なんて、いつものことじゃないですか…」

今回に限らず、しょっちゅう行ってるでしょう。

その度に、「行きたくない」とぼやいていますけど。

ここまで落ち込んでるのは、今回が初めてだ。

もしかして…。

「何か…今回は、いつもと違うことがあるんですか?」

初めて行く国、とか…。

あるいは、その国の治安に不安があるとか…。

そういう、いつもとは違う特殊な事情があっ、

「あぁ、あるよ。私はね…来週、大切な予定を立てていたんだ」

「…予定…?」

「そうだよ。小羽根の為に、都内のホテルのレストランで開催されている、スイーツビュッフェの予約を取っていたんだ」

「…」

「急遽海外出張なんか決まったせいで、その予約をフイにされた…!小羽根とデートするつもりだったのに…!こんなに悲しいことがあるかい?」

…そうですね。

「ここ数日、美味しいスイーツを食べて、幸せそうに顔を綻ばせる小羽根の笑顔を想像して楽しんでいたのに…その笑顔が見られないんだよ?」

「…はぁ…」

「小羽根の可愛い笑顔の代わりに、海外の取引先の中年男の顔を見なきゃいけないんだよ?これは地獄だよ。この世の地獄だ」

そうですか。

とりあえず加那芽兄様、その取引先の男性に謝ってください。

その人、何にも悪くない。

「それと、予約はちゃんとキャンセルしてくださいね」

「…やっぱり駄目かな?ワンチャン、海外出張なんかすっぽかして、小羽根と一緒にスイーツビュッフェを、」

「駄目に決まってるでしょう」

「くっ…!小羽根…君はなんて真面目な良い子なんだ…」

当たり前のことです。

僕の為に、スイーツビュッフェを予約してくれたのは嬉しいですけど。

スイーツビュッフェなんかより優先すべきことが、世の中にはたくさんありますからね。

ましてや、海外出張をすっぽかすなんてとんでもない。

「頑張って出張、行ってきてください。帰ってきたら、また一緒にスイーツビュッフェに行きましょう」

「小羽根…」

…そんな、まるで救いの女神を見るような目で見ないでください。

「分かったよ、小羽根…。お兄ちゃん、小羽根の為に頑張ってくる」

…そうしてください。