びっくりした…。動物が迷い込んだのかと…。

い、いやそんなことより。

「だ、大丈夫ですか?」

僕は慌てて、アルマジロみたいに蹲っている人に声をかけた。

てっきり、お屋敷の使用人の誰かが、仕事中に具合を悪くして蹲ってしまったのかと思った。

しかし、よくよく見てみたら。

それは決して、使用人などではなく。

「え、加那芽兄様…?」

「…」

僕の兄、加那芽兄様その人であった。

「ど、どうしたんですか…?大丈夫ですか?」

加那芽兄様が。こんなところで。

この間の僕みたいに、貧血を起こしたのだろうか。

それとも、もっと悪い病気で…?

「しっかりしてください、加那芽兄様。加那芽兄様に何かあったら、僕は…!」

「…小羽根…」

あ、口利いた。

どうやら、意識はあるようだ。

加那芽兄様は、死んだような顔で僕の手をぎゅっと握った。

「大丈夫ですか?加那芽兄様…。何処か痛いんですか?苦しいんですか?すぐに、人を呼んで…」

「ありがとう…。小羽根、君は本当に優しい良い子だね…」

顔色は悪いけど、普通に喋っている。

えっと…?

「でもね…誰に慰められたって、今の私の心を癒やすことは出来ないだろうよ…」

「ど、どうしたんですか?一体…」

「…とても悲しい知らせがあるんだ。小羽根」

加那芽兄様は、僕の目を真っ直ぐに見つめた。

思わずドキッととして、背筋が冷たくなった。

悲しい知らせって…。まさか、加那芽兄様の身に何か…。

「な…何なんですか…?」

「こんなことを君に言わなきゃいけないのは…とても残念なんだけどね…」

「…ごくっ…」

加那芽兄様がここまで仰るなんて。きっと酷く悪いニュースが、

「…来週から、二週間の海外出張が決まってしまった」

「…は?」

苦しい顔で打ち明ける加那芽兄様に、僕は思わず間抜けな声が出てしまった。

…は?海外出張?

「済まない、小羽根…。私の力が及ばないばかりに…」

「え、えぇっと…?か、悲しい知らせって?まさかそれですか?海外出張のことですか?」

「そうだよ。こんなに悲しい知らせがあるかい?」

「…」

…それ、そんなに悲しい知らせですか?

どんなバッドニュースが飛び出してくるかと思ったら…。

…予想以上にどうでも良、いや、予想以上に大したことなくて…拍子抜けしてしまった。