てっきり…喜び勇んで大騒ぎするものと思ってたんですけど…。

「あの…天方部長…?」

「…」

つんつん、とつついてみても、全くの無反応。

チケットを握り締めたまま、固まって動かない。

ぼ、僕何か地雷、踏んじゃいました?

「え、えっと…」

すると、天方部長が突然動いた。

僕の足元に跪き、高貴な人に挨拶でもするように、僕の手を取った。

「後輩君…。今日から君のこと…女神様って呼んでも良いかな…?」

「…嫌ですよ…」

何を言い出すかと思ったら。

「ありがとう、後輩君…。この恩は死ぬまで…いや、死んでも忘れないよ…」

そ、そんな大袈裟な…。

「僕に感謝されても、僕は何もしてないんですよ。骨を折ってくれたのは僕の兄で…」

「そうか。じゃあお兄さんに、『ありがとう。愛してます』って伝えておいてくれ」

唐突な愛の告白。

加那芽兄様だって、突然そんなこと言われたら困りますよ…。

「…はぁ…分かりました…。伝えておきます」

「後輩君!愛してる!」

「うわっ!」

大好きな『frontier』のグッズとライブチケットを前に、テンションがおかしくなっているのか。

天方部長は突然そう叫ぶなり、僕に抱きついてきた。

ちょ、な、何なんですか。

「部長の為にここまでしてくれるなんて、君は最高の後輩だよ…!」

「いえ、あの…。そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、これは僕じゃなくて僕の兄が手に入れてくれたもので…」

僕はただ、加那芽兄様にお願いしただけで…。

しかし、テンションマックスの天方部長は、そんなことお構いなしに目をキラキラと輝かせていた。

「この感謝をどう伝えたら良いものか…!」

「は、はぁ…。大丈夫ですよ。既に充分伝わってますから…」

「あ、そうだ!じゃあ今度部活を変える時は、後輩君に命名権をあげるよ」

ありがとうございます。名誉な役目ですね。

でも、要りません。

また変えるつもりなんですか。芸術研究部のままで良いじゃないですか。

「ありがとう後輩君!この恩は一生忘れないよ…!」

「よ、良かったですね…。…ライブ、楽しんできてくださいね」

「うん!ありがとう!」

と、天方部長はまるで少年のように、輝く瞳で言った。

こんなに喜んでくれるなんて…加那芽兄様に無理を言って良かった…。