「…!これは…!」

リング・ブレスレットの小箱を見て、しゅばっ、と起き上がる天方部長。

食いつきましたね。

「知ってる、知ってるぞ…!これは…まさか、『frontier』のコラボ限定リングブレス…!?」

「はい、その通りです」

これには、天方部長も口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。

どころか、天方部長のみならず。

「これ、まだ販売前のグッズじゃないんですか?何で小羽根さんが既に持ってるんです?」

まぁ、当然の疑問ですよね。

僕も加那芽兄様がこれを持ってきた時は、びっくりして腰を抜かしたものです。

「えぇっと…。実は、凄く偶然なんですけど、僕の…兄が、このグッズを作っている会社の関係者でして…」

まさか無悪グループの系列企業云々、という説明をする訳にはいかないので。

上手く言葉を濁しながら、掻い摘んで説明した。

天方部長は、目を白黒させていた。

「サンプルとして、いくつかもらったそうなんです。兄は使わないからって…」

「マジかよ…!?そんな偶然ってある?普通ある…!?」

…あんまりないですよね。普通は。

でも、時にはあるかもしれない。それが俗に言う、運命の悪戯というヤツです。

「兄に相談したら、天方部長にプレゼントしても良いってことなので…。あげます」

「良いのか…?本当に…自分にこれをくれて良いのか…!?」

「良いですよ。どうぞ」

「後輩君!あんがと!」

天方部長は目をキラキラ輝かせ、表彰状でも受け取るかの如く、恭しくリング・ブレスレットを受け取った。

そんな大袈裟な手付きで…。普通に受け取ってもらって大丈夫ですよ。

「すげぇ…。ライブ民でさえまだ買えてないグッズを…『frontier』のコラボアクセを…!自分が手にしてるなんて…。…これって本物…本物なんだよな…?」

「本物ですよ…。心配しなくても…」

偽物掴ませたりしませんよ。信用してください。

…それに、プレゼントはこれだけではないのだ。

「やったぜ!これはガラスケースに入れて、一生モノの家宝に…」

「天方部長。それと、これを…」

「…へ?」 

僕は、白い封筒を天方部長に差し出した。

これは数日前に加那芽兄様に頼んで、昨日手に入れてもらったものである。

「開けてみてください」

「何々?果たし状か何か…」

と言いながら、封筒を開くと。

出てきたのは果たし状ではなく…一枚のチケットである。

「…え…これ…」

目を見開く天方部長。

どうやら気づいたようですね。

「兄に頼んで、会社のツテで手に入れてもらったんです」

そう。天方部長が取り損なった…『frontier』の限定ライブチケットである。

こういう権力の乱用みたいなことは好きじゃないんですけど…今回は、天方部長の為なので。

加那芽兄様に頑張ってもらいました。

「すげーな。本物だ」

「小羽根さん、あなたもしかして大物なんですか?」

佐乱先輩と弦木先輩もびっくり。

僕が大物なんじゃなくて、加那芽兄様が大物なんです。

「良かったねー、まほろ君」

「…」

久留衣先輩に声をかけられても、天方部長は目をまん丸に見開いたまま、微動だにしなかった。

…あれ。大丈夫ですか?