首を傾げながら待っていると、しばらくして、加那芽兄様が戻ってきた。

「お待たせ。これだよ、小羽根」

「…?はい…?」

加那芽兄様は、黒い小さな小箱を僕に手渡した。

何だろう、これ…?

「開けてみても良いですか?」

「勿論だよ」

小箱をぱかっと開くと、中にあったのは。

洒落たデザインの、リング・ブレスレットだった。

…これって…見覚えが…。

「加那芽兄様…これ…」

「『frontier』とのコラボアクセサリーだよ」

ですよね。

これと全く同じ写真を、今日、天方部長に見せてもらったばかり。

その実物が、僕の目の前にある。

「どうして加那芽兄様が…これを…?」

天方部長によると、今度の『frontier』のライブ限定のグッズ?なんでしょう?

「実は、今回そのアクセサリーを作ったのが、無悪グループのアクセサリー・メーカーでね。サンプルとして、私のもとにも送られてきたんだ」

「そっ…」

…そんな偶然、あります?

まさか、天方部長が喉から手が出るほど欲しがってるアクセサリーを、うちの…無悪グループのアクセサリー・メーカーが作っていたなんて…。

「私は使わないからね。小羽根が『frontier』に興味があるなら、小羽根にあげるよ」

とのこと。

そんな…。駄菓子をお裾分けするみたいな軽いノリで…。

喉から手が出るほど欲しがってる天方部長は、手に入らないのに。

今日『frontier』のファンになったばかりの、急ごしらえにわかファンの僕のもとに、こんなレアなグッズを。

しかも、タダでプレゼントしてもらえるなんて。

…世の中って、不公平なんですね。

僕がこのリング・ブレスレットを手に入れたと知ったら、天方部長は血の涙を流すだろうな…。

…。

「…あの、加那芽兄様…」

「ん?」

「貴重なリング・ブレスレット…凄く嬉しいんですけど…これ、他の人にプレゼントしても良いですか?」

「…!」

凄く失礼ですよね。ごめんなさい。分かってます。

加那芽兄様は僕の為にプレゼントしてくれたのに、それを他の人に横流ししても良いですか、なんて。

分かってるんですけど…こんな貴重なプレゼント、にわか『frontier』ファンの僕には勿体ない。

本当に、このリング・ブレスレットを心の底から欲しがっている人の手に渡った方が、リング・ブレスレットも本望というものでしょう?

「…誰に?」

加那芽兄様の声が低くなった。

うっ…。怒ってますか?やっぱり怒ってます?

しかし、今更「やっぱりやめます」とも言い出しづらい。

「えっと…。同じ部活の…」

「…女?まさか、女にプレゼントするたもりじゃないだろうね?」

へ、女?

「え、違いますよ?男性…天方部長です」

「…天方…」

「天方部長は、根っからの『frontier』ファンなんだそうです。さっき聴いてたアルバムも、天方部長が貸してくれて…。このリング・ブレスレットを、凄く欲しがってて…」

「…」

「でも、ライブのチケットが取れなかったらしくて、凄く落ち込んでて…。だから…加那芽兄様さえ良かったら…僕じゃなくて、天方部長にあげても良いですか?」

「…」

…どうしよう。加那芽兄様が黙っちゃった。